研究内容

2017年3月27日

分子栄養学分野の研究内容

  1、ミネラル代謝と疾患(担当、宮本賢一)

人体に存在する元素は、炭素・水素・酸素・窒素の4つで全体の約96%が構成されている。「ミネラル」は、この残りの4%にあたる元素の総称である。ミネラルは人体の重要な構成成分であり、また身体機能の維持に必須の栄養素である。ミネラルの中で、ヒトの体内に存在し、栄養素として欠かせないことが確定しているものを必須ミネラルといい、現在16種類と考えられている。必須ミネラルのうち、1日の摂取量が概ね100mg以上のものを主要(多量)ミネラル、100mg未満のものを微量元素(微量ミネラル)と分類されている。多量ミネラルのナトリウム・カリウム・カルシウム・マグネシウム・リン、および微量ミネラルの鉄・亜鉛・銅・マンガン・ヨウ素・セレン・クロム・モリブデンには食事摂取基準が策定されている。このように、ミネラルはビタミンと同様に、必要量は微量であるが、生命維持には必須である。最近、これらミネラルの摂取が慢性疾患患者の生命予後に関係することが明らかにされている。とくに、慢性腎臓病や透析患者においては、カルシウム、リン、マグネシウムおよびビタミン Dなどの栄養素摂取と心血管障害との関連性が知られている。高齢者における生理学的な変化は、栄養代謝に関して、大きな影響を与える。我々の研究室では、慢性腎臓病や透析患者おけるミネラル代謝異常に注目し、研究を展開している。

生体内リンの代謝調節分子機構の解明

腎臓と骨を結ぶリン代謝制御

 

2、リン・ビタミンD代謝調節機序の解明(担当、宮本賢一、金子一郎)

 リン代謝は長年謎のベールに包まれていた。近年、fibroblast growth factor (FGF23)がリン代謝調節因子として同定され、新しい展開がなされている。FGF23は常染色体優性遺伝性低リン血症性クル病(ADHR)の責任遺伝子として同定された。また、同時に腫瘍性骨軟化症(TIO)の産生するリン利尿因子であることが明らかにされた。 TIOの原因は、腫瘍からのFGF23の過剰分泌と想定されている。このようにFGF23は長年不明であったリン代謝異常症の原因因子として登場した。さらに、興味深いことに FGF23のリン代謝調節には、klothoを必要とすることが明らかにされた。このことより、 生体内リン代謝調節機構にFGF23/klothoシグナルが加わった。klotho発現が抑制されているklotho変異マウス (kl/klマウス)は高ビタミンD血症、高カルシウム、及び高リン血症を示すことなど、明らかにカルシウム・リン代謝調節異常を示す。我々の研究室では、 FGF23/klothoシステムによるリン代謝制御機序について研究を行なっている。

高Ca尿に伴う遺伝性低Pi血症性くる病

 

3、リントランスポーターの生理学的な役割の解明(担当、瀬川博子)

食事から摂取したリンは、腸管から吸収される。活性型ビタミン Dは、腸管リン輸送体の発現を促進させリン吸収を亢進させる。その後、リンは骨や軟組織に存在する体内リンプールと入れ替えを行い、摂取したリンに見合う量が腎臓より排泄される。摂取するリン濃度が一定基準値より高い場合(高リン負荷)には、2種類のリン利尿因子(副甲状腺ホルモンPTHおよび線維芽細胞増殖因子 FGF23)が分泌される。高リン負荷による迅速な応答は、 PTHに見られる。続いて、骨よりFGF23分泌が亢進する。 PTHは腎臓に発現する副甲状腺ホルモン受容体 (PTHR1)に作用して、リントランスポーター ( Npt2aおよびNpt2c)量を低下させリン利尿を促進する。また、活性型ビタミン Dは、腸管における Npt2bの発現を制御している。我々の研究室では、 Npt2a, Npt2b, Npt2cノックアウトマウスを作製して、その生理学的な役割について研究を行っている。

 

4、慢性腎臓病におけるリン管理(担当、辰巳佐和子)
リン代謝の重要な代謝系であるFGF23/klothoシグナルの発見により、FGF23-KOマウスや Kl/Kl(klotho欠損)マウスに見られる老化促進兆候がミネラル代謝異常により生じる事が明らかにされた。kl/klマウスの組織学的観察では、 中膜石灰化に伴う動脈硬化、異所性石灰化、骨粗鬆症、皮膚の萎縮、肺気腫、 下垂体異常など老化の表現系に酷似した異常が認められる。ビタミン Dやリンの制限食で飼育するとマウスの表現型 が回復するので、血中カルシウム/リン積の上昇がこれらのマウスに観察される老化 促進因子と想定される。ヒトにおいても、慢性腎臓病患者のリン摂取過剰が、老化の促進をもたらす可能性を検討している。

 
5、透析患者と栄養(担当、辰巳佐和子)
透析患者における特徴的な栄養障害protein-energy wasting(PEW)は、生存率に大きく関与することから、重要な問題となっている。PEWは体たんぱく質とエネルギー源(筋肉量・脂肪量)の減少が特徴的に見られ、適切な管理を行わなければ徐々に進行し重篤化する。PEWは、透析に伴って生じる異化亢進、炎症、透析液からの栄養素の喪失、グルコース利用率の低下(インシュリン抵抗性)、内分泌的な異常などが主な原因となる。 PEWでは、食欲不振による摂食量不足も起こるが、栄養補給だけでは、完全に病態の改善が見られないことが大きな問題である。PEWでは炎症性サイトカインなどにより、むしろ代謝回転が亢進していることに起因する。PEWの早期には、体液・電解質・酸塩基平衡の異常や尿毒素の作用、胃運動障害、食欲増進ホルモンであるグレリンに対する反応の低下などにより食欲低下が生じ、食事摂取量の減少が観察されるとともに関連マーカーの上昇がみられ始める。PEWが重篤化した状態を、悪性腫瘍や白血病の末期に出現する病態と同じく悪液質(cachexia)として定義しており、悪液質まで進行すると非可逆的となり有効な治療法がないことから、死亡率が上昇することが知られている。 PEWの原因に関して、種々の動物モデルを用いて研究を行なっている。
 
(参考文献)
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和文総説
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2)宮本賢一,中屋豊. 高リン血症と低リン血症.216-220. 循環器医のための知っておくべき電解質異常.(メディカルレビュー社)
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