CREST事業

臓器特異的自己免疫疾患の病態解明による慢性炎症制御法の開発

1.研究の背景

慢性炎症は、免疫系の異常によって起こる病気(アレルギーや自己免疫疾患)で見られるのみならず、近年、がん・動脈硬化性疾患、さらにはII型糖尿病といった代謝性疾患の病態にも深く関わることが明らかになりつつある。したがって、当該疾患の予防・診断・治療に対する医療技術の創出を考える上で、慢性炎症の病態理解は新たな視点を与えてくれる。他方、私たちの身体には、外敵(非自己)の侵入から身(自己)を守る手段として免疫システムが備わっている。ところが、何らかの原因により免疫システムが自分自身の身体に攻撃をしかけるようになり、自己免疫疾患と呼ばれる難治性の慢性炎症が発生する。自己免疫疾患の本態は自己反応性リンパ球を炎症のエフェクター細胞とする臓器炎および血管炎であり、典型的な慢性炎症に基づく病気である。そのため、自己反応性T細胞がどのように産生され、またどのようなメカニズムによって炎症の慢性化が誘導・維持されているかの解明は、自己免疫疾患の本質的解決課題である。


2.研究の目標

本研究では、免疫システムが「自己」と「非自己」を見分ける能力を獲得する際にはたらくAIRE遺伝子を研究対象に選び、自己免疫疾患において、持続的かつ過大な炎症が発生するメカニズムを探る。それによって、自己免疫疾患に対して原因に基づく新たな治療法の開発を目指す。


3.研究の特色

自己免疫疾患の病態解明は、免疫学における最重要課題の一つと捉えられているが、なかなか大きな進展が得られていないのが実情である。その理由に、病態解明につながるような適切な研究対象モデルや分子が存在しなかった点があげられる。言い換えれば、自己免疫疾患の原因究明には分子生物学的なアプローチが長らく困難であった。ところが、AIRE遺伝子の出現によって、その状況が一変した。AIRE欠損症では、わずか1遺伝子の異常により種々の腺組織を標的とする自己免疫病態を例外なく発症する。しかも、AIRE遺伝子の発現は成熟過程にあるT細胞との相互作用によって自己寛容の成立に直接関わる胸腺髄質上皮細胞(medullary thymic epithelial cell: mTEC)で最も強い。そのため、AIRE機能の全貌解明により、「自己・非自己の識別機構」についての基本原理すら、一挙に解決できる可能性がある。何よりも大切な点は、AIRE欠損症は単一遺伝子の異常によって起こる病気であるため、AIRE遺伝子の改変操作によって、マウスにヒトと同じ病態が再現できる。すなわち、AIREの研究によって、ヒトにおいては不可能な真の実験医学が可能になったと言える。


4.将来的に期待される効果や応用分野

翻って原因不明の難病である自己免疫疾患の病態を明らかにすることは、免疫システムの根幹をなす「自己・非自己の識別機構」の作動原理を理解することに他ならない。AIRE依存的な慢性炎症発症メカニズムの解明は、自己免疫疾患の病態解明と、本症に対する新規治療法の開発に重要な知見をもたらすものと期待される。