平成17年 外部評価

平成17年 外部評価

外部評価の方法

分子酵素学研究センターは平成9年(1997年)4月に改組され、今年で9年目を迎えた。法人化後、センターは省令指定ではなくなり、10年時限はなくなった。昨年12月に学長から10年目の改組の指示があった。そこで1年間をかけセンター改組案を作成し、その案と今までの各部門の研究業績を外部評価・検討していただくことになった。なお、本庶佑(京都大学大学院医学研究科教授・日本学術振興会 学術システム研究センター所長・第79回日本生化学会大会 会頭)と高井義美(大阪大学大学院医学系研究科教授・第78回日本生化学会大会 会頭)の両先生に外部評価委員の委嘱をお願いし参加いただいた。事前に評議員には評価用資料(各部門の9年間の研究業績一覧)を送付の上、カンファレンスにご出席頂き、各部門からの過去9年間の研究進捗状況の説明に対し質疑応答をしていただいた。その後、1時間にわたる評価委員の先生方との討議を行った。その結果をふまえて両委員からは、各部門に対する研究の内容、方向性を含め大所高所からセンター全体に対する下記のようなご教示をいただいた。

 

分子酵素学研究センター外部評価カンファレンスプログラム

日 時〕平成17年11月19日(土)午後1時~5時30分
〔場 所〕徳島大学蔵本キャンパス 青藍会館大会議室
〔演題および演者〕

  1. 酵素からみる病態-インフルエンザ感染、インフルエンザ脳症のトリガー酵素群-
    (分子化学)木戸 博
  2. 疾患プロテオミクスを目指して
    (分子生理)谷口寿章
  3. インスリンシグナル伝達と糖尿病解明
    (分子遺伝)蛯名洋介
  4. D-アミノ酸酸化酵素と新規アポトーシス分子ヌクリングの病態生理学的意義の解明
    (遺伝制御)福井 清
  5. 自己寛容の成立機構に働く胸腺内転写調節因子の機能解析
    (情報細胞)松本 満
  6. アクチビンの生理作用とその調節機構
    (分子細胞)杉野 弘
  7. センター改組に向けて(将来構想案)
    (センター長)蛯名洋介
  8. 評価会議

 

外部評価報告書

徳島大学分子酵素学研究センター 外部評価報告書
京都大学大学院医学研究科教授
日本学術振興会 学術システム研究センター所長
第20回国際生化学・分子生物学会議 会長
本 庶 佑

1.分子酵素学研究センターの全般的活動について

本研究センターは酵素学研究の長い伝統に基づいて、国内のみならず国際的にも評価される大変優れた結果をあげている。このセンターの伝統的研究の1 つであるタンパク質分解酵素の研究を地道に発展させ、インフルエンザの感染制御への展開に至った木戸教授の研究は代表的なものであり、世界に誇る研究成果である。その他、蛯名教授のインスリンリセプターの作用機序の研究、杉野教授のアクチビンシグナルの伝達ならびにその活性制御の研究も本研究センターを代表する国際レベルの研究である。他の若い教授の先生はこれからこの優れた環境の中で、独自の世界をつくり上げ展開していくことが必要でありまた十分可能と思われる。何よりも、世界でそのグループだけと認識される独自のものを持つことが重要である。福井教授のD-アミノ酸酸化酵素の研究はその点において極めてユニークな発想であり、統合失調症との関連が証明されれば大変おもしろい研究となる可能性を秘めている。谷口、松本両教授は新技術開発における貢献で重要な役割を果たしているが、今後独自のターゲットの確立が期待される。

2.本研究センターの今後の展望

本研究センターは上に述べたようにその独自の学風の蓄積からすでに小さいながらも国際的に注目される存在となっている。今回の改組にあたり、この比較的小さなグループを明確な視点を持ったプロジェクトチームの集合体として再構成し、明確な方向性を出すことは意義がある。さらに、それぞれのグループの独自性と同時に、酵素学研究所全体としての明確な旗印を打ち立てることが重要であると考えられる。その点、「分子酵素学研究所」はあまりにも幅広い方向性を持ち、この研究所の存在意義をアピールすべき旗印として、やや力強さに欠けるのではないかと思われる。次の十年の生命科学の焦点は、様々な分子レベルの情報を統合して病態の解明と治療への展開がまず喫緊の課題である。多くの国民の願望も生命科学研究への投資により我々の健康がどのように改善されるのか、平均寿命の延伸のみならず健康寿命がいかにして保たれるのかということに向かっており、このような視点をこめた看板を立ち上げ、研究所の一層の発展を図るのが望ましい。また、本研究所の母体となった医学研究科と協力関係を密に保ちつつ、焦点を絞った酵素学に基づいた疾患研究という方向性を強く打ち出すことが得策と考えられる。

 

徳島大学分子酵素学研究センター 外部評価報告書
大阪大学大学院医学系研究科教授
第78回日本生化学会大会 会頭
高 井 義 美
大阪大学大学院医学系研究科教授
第78回日本生化学会大会 会頭
高 井 義 美

 

酵素学は糖質や脂質などの代謝研究において始まり、医学・生物学の歴史の中でも、極めて初期に大きく発展した学問である。酵素はその後、代謝のみならずDNA 複製やタンパク質の合成や分解、シグナル伝達などほとんどすべての細胞機能に関与していることが明らかになっており、今日まで酵素学は医学・生物学研究全般において重要な地位を占めてきた。ポストゲノム時代に突入してきた現在でも、酵素学は極めて重要であり、その重要性はむしろこれまで以上に高まっているとも言える。しかし、医学・生物学に興味を持つ者の多くはかつて酵素学を勉強したが、その後、分子生物学が流行し発展すると、多くの研究者は酵素学よりも分子生物学に興味を示すようになり、残念ながら現在では酵素学を充分に習得している研究者は国内外において数少なくなってきている。

 

徳島大学では、1952 年に医学部に学内措置として『酵素研究所』が設立されて以来、1961年には『医学部附属酵素研究施設』、1987年には『酵素科学研究センター』、 1997年には『分子酵素学研究センター』へと発展的に改組され、徳島大学の本組織はそれぞれの時代において、国内の酵素研究の中心的な役割を果たしてきた。本組織から日本を代表するような研究成果が報告され、また多くの逸材も輩出され、現在でも他の研究機関で活躍している。本組織が酵素研究とその人材育成に果たしてきた役割は国内外で高く評価されている。

 

現在の6研究室での研究も順調に進展しており、高く評価できる。特に、木戸教授の研究は、酵素学を十二分に生かしており、本組織に最も適したものである。その成果は基礎医学のみならず臨床医学にも大きく貢献できるものとして今後のさらなる発展が期待される。蛯名教授と福井教授の研究も順調に進展しており、臨床に応用することが可能であり、今後の成果が期待される。一方、谷口教授のプロテオミクス研究も他教室との共同研究もともに極めて順調に進展しており、高く評価できる。松本教授のノックアウトマウスを用いた研究も順調に進展しており、その成果は臨床応用可能であり今後の成果が期待できる。杉野教授のこれまでのアクチビンに関する研究成果は、その独創性が極めて高いことから、国内外で高く評価されており、杉野教授が来年にご定年で本組織を去られることは極めて残念である。

 

本組織のさらなる改組に関しては、現在の生命科学の状況を艦み、本組織の伝統と実績に基づいて、改組後も酵素学を中心に研究・教育を行うことが徳島大学にとって最も重要であると思われる。現在のメンバーの研究領域は国内においても国際的にも極めて競争の激しいところであり、本組織を改組してさらに活性化させるためには、各研究室がそれぞれの研究領域において少なくとも国内でのトップになれるようにさらなる努力が必要である。組織全体の理想像としては、臨床に応用できる大きな研究テーマをできるだけ絞り、そのテーマを全メンバーが一丸となって行い、本組織がその研究領域でトップになることを目指すことが望ましい。あまり多くのテーマを目指しても、それぞれのテーマですべてトップになることは難しく、かえって特徴がなくなり、今後国内での競争に勝てなくなる可能性がある。今後改組にともなう、本組織のメンバーの人事にあたっては大きな方針のもとに慎重におこなうべきである。

 

評価者としては、本組織が改組後もこれまでと同様国内外において酵素研究において中心的な役割を担っていくことを念願している。