平成11年 外部評価

平成11年 外部評価

1.外部評価の方法

分子酵素学研究センターは平成9年(1997年)4月に改組され、今年で3年目を迎えた。10年時限の期間の約3/1が過ぎたことになる。そこで、当センターでは、広く内外の評価を受け、残された7年の研究活動に対する指針を得ることを目的としてカンファレンスを開催した(下記参照)。なお、松尾壽之(国立循環器病センター研究所名誉所長)と本庶佑(京都大学医学部部長)の両先生に外部評価委員の委嘱をお願いすると共にカンファレンス当日演者としてご参加いただいた。事前に評価委員には評価用資料(各部門の3年間の研究業績一覧)を送付の上、カンファレンスにご出席いただき、各部門からの過去3年間の研究進捗状況の説明に対し質疑応答をいただいた。その結果を踏まえて両委員からは、各部門に対する研究の内容、方向性を含め大所高所からセンター全体に対する下記のようなご教示をいただいた。

 

分子酵素学研究センターカンファレンスプログラム

〔日 時〕平成11年11月22日(月)午後1時~7時
〔場 所〕徳島大学蔵本キャンパス 青藍会館大会議室
〔演題および演者〕

  1. プロテアーゼを軸にした細胞機能解析と病態の解明
    -プロテアーゼ/分子シャペロンの基質認識とウイルス感染とプロテアーゼ-
    (徳大・分子化学)木戸 博
  2. グリシン開裂酵素系と蛋白質のリポイル化
    (徳大・分子生理)本川雄太郎
  3. インスリン作用の分子メカニズムと糖尿病
    (徳大・分子遺伝)蛯名洋介
  4. 無題
    (国立循環器病セ)松尾壽之
  5. 神経系並びに循環系における新規制御因子の生理機能とその分子機構
    -D-アミノ酸酸化酵素と組織レニン・アンジオテンシン系による調節を中心として
    (徳大・遺伝制御)福井 清
  6. 発生工学を用いた生体防御機構に関わる遺伝子機能の解析
    (徳大・情報細胞)松本 満
  7. アクチビン・フォリスタチン系による神経回路網形成の制御
    (徳大・分子細胞)杉野 弘
  8. クラススイッチ組換えの分子機構
    (京大院・医)本庶 佑

 

2.外部評価報告書

評価意見書にかえて
国立循環器センター研究所
松 尾 壽 之

今回、徳島大学分子酵素学研究センター外部評価委員として、センター各部門の研究業績の概要と将来への展望を聞く機会を得た。それぞれ約30分の発表で、各部門の活動状況を十分に把握するにはあまりにも短すぎたが、研究センター全体としての基本的な姿勢は明らかにくみ取られた。「生体の情報系を酵素学的に研究し、情報網の構築と制御機構の解明を目指す」という改組の理念は十分に浸透していると思われた。平成9年の改組後、わずか3年ではあるが、昭和36年発足以来の伝統をバックボーンとして、着実な研究が行われていることは非常に印象的で、ポスト・ゲノム時代にも対応できるものであろう。酵素科学研究センター当時から在籍のヴェテラン教授陣の優れた業績はすでに評価が確定している所であるが、若手教授の将来性を感じさせる研究発表は、センターの世代交代も順調に進んでいることを示唆している。

わが国研究機関での共通の悩みの一つは、若手研究者を獲得することの難しさにあるが、この点についての情報は十分ではない。医学部付属施設から学内共同研究施設に改組されたことで、若手研究者の参入に何か変化があったのだろうか。会議終了後、懇親会の席で、何人かの若者と話す機会があったが、いずれも素直な知的欲求を生き生きと表現していたのは快いものであった。四国に唯一の伝統ある研究機関であることに、彼らは誇りを感じているのであろうか。彼らの中から、次代の研究者が生まれることを期待したい。今回の評価カンファレンスを終わって思うことは、いくつかの研究室を訪れて、実験室の雰囲気を直に感じてみたかったという思いである。たとわ、わずかな時間であっても、その空気から敏感に感じとれるものがあると思われる。サイト・ヴィジットの効用の一つであろう。

おわりに、きわめて個人的なお詫びを一つ。今回のカンファレンスで、私達にも講演の機会を与えて下さったことは大変光栄に存じます。しかし、評価をさせていただく立場にあるものが、同じ席上で、どんな話をしてよいものか正直なところ随分と惑いました。タイトルを「無題」とさせて頂いた理由です。失礼をお許しください。

 

徳島大学分子酵素学研究センター 外部評価報告書
京都大学医学部
本 庶  佑

1.分子酵素学研究センターの全般的活動について

本研究センターは平成9年に発足された10年時限の研究センターであり、6研究部門と1客員部門、共同利用実験施設から校正されている。本研究センターの研究活動は全般的に高度のものであり、改組3年目にしてすでに十分な成果を上げていると言うことができる。個々の部門の評価は後述するが、小さな研究センターとしてはすでに世界的レベルの成果が出ており、全国レベルで見ても特筆すべき研究センターとしての実績を上げている。特に酵素分子化学部門におけるプロテオソームの研究、ウイルス感染におけるプロテアーゼの役割、また酵素分子生理学部門におけるグリシン開裂酵素系の詳細な解析、分子遺伝学部門におけるインスリンレセプターの生理的役割、また分子細胞学分野におけるアクチビンとその制御蛋白質の機能解析らはセンター設立前からの長い実績に基づいた特筆すべき研究である。

本研究センターの今後の展望として考慮を必要とする点は、分子酵素学研究センターとして何らかの共通の目標を掲げるのか、それとも新しい生命科学の発展に寄与する様々な研究を幅広く追及して行くのか、という点であろう。現在、酵素学を中心テーマとして取り上げている部門は分子化学、分子生理学、遺伝制御学の3部門であるが、分子遺伝学と分子細胞学の研究も広い意味でシグナル伝達に関わる酵素の研究と考えられる。古典的な酵素の研究から個体機能と病態の中に酵素機能を位置付ける方向も考えられる。今後の研究センターの位置付けとして、この2つの流れがどのように有機的に連携をするのか注目する必要がある。

 

2.各部門の評価

1)酵素分子化学部門

本分野の研究は、2つの極めて高度の研究成果で裏付けられ、5件の特許申請も含め、その活動は全国トップレベルの研究室と位置付けることができる。具体的には、プロテオソームの中に分子シャペロンの存在を解明し、またその酵素活性がATPaseではなく、ヌクレオチド2リン酸キナーゼ活性であるということを明らかにし、これまでの常識を覆した成果は高く評価される。またもう一つのプロジェクトであるウイルス感染症におけるトリプターゼクララの生理意義を見事に明らかにしたことも特筆すべきである。これらの研究成果は多くの欧米一流誌に発表され、またすでに多くの研究費の助成も得ている。

 

2)酵素分子生理学部門

この部門では、グリシン開裂酵素系の構造と機能、及びリポ酸含有酸素の精製に関して極めて緻密で詳細な研究を行い、酵素の機能とその分子機構に関する最も基本的な最先端の研究を進めており、その成果は多くの欧米一流誌に発表され、国内外で高く評価されている。

 

3)分子遺伝学部門

本分野は、長くインスリンレセプターの作用機構と糖尿病の発症機構に関して一貫した研究を行い、多くの成果を上げている。この成果は、分子生物学的な方法、発生工学的な方法を駆使し、その研究成果は国際的一流誌に発表され、世界レベルでの高い評価を得ている。これらの研究に対して文部省の科学研究費が与えられ、研究活動が極めて活発である。

 

4)遺伝制御学部門

本分野は、教授着任後まだ日が浅く、多くの成果がようやく出始めた段階である。この分野においては、D-アミノ酸酸化酵素とレニン・アンジオテンシン系を調節するレニン結合蛋白質という2つの古くから知られた物質でありながら、その生理的機能が全く不明の分子に注目し、新たな展望を切り開こうとする極めて意欲的な研究である。すでに細胞レベルでD-アミノ酸参加酵素が脳の情報伝達制御に関わる可能性を示唆する成績を得ており、その生体内における確認が極めて楽しみである。同様なことはレニン結合蛋白質にも言え、これらについても現在発生工学手法を用いた研究が進みつつあり、今後の進展が極めて注目される。

 

5)情報細胞学部門

情報細胞学分野は教授が着任後まだ1年であり、その具体的な活動は今後の展開を待つ必要がある。しかしこれまでの実績は極めて重要な成果を米国で上げたことから見て、十分にその活動が期待される。

 

6)分子細胞学部門

この部門では、長くアクチビン受容体の同定、その制御物質の発見など発生初期に重要な役割をするアクチビンの生理活性とその作用発現のメカニズムを研究し、近年脳における新たな生理活性の発現を示唆する有力な成績を得ている。これらの研究は多くの欧米一流誌に発表され、研究費も多数与えられ、極めてレベルの高い研究成果が得られている。