工学とは、通常「数学と自然科学を基礎とし、時には人文社会科学の知見を用いて、公共の安全、健康、福祉のために有用な事物や快適な環境を構築することを目的とする学問である」と言われています。
工学はその目的を達成するために、新しい知識を求め統合し、応用するばかりでなく、対象の広がりに応じてその領域を拡大し、周辺分野の学問と連携を保ちながら発展します。したがって、工学の定義は時代とともに変化すると言えるでしょう。いずれにしても、技術を体系づける科学であると言えます。
社会が高度技術化、人工システム化した現代においては、工学は広く人工システムの開発企画・設計、製作、運用、保全のための基礎となる学問ということも出来ます。
ところで、従来から「工学」や「技術」に関する用語は明確な定義がなく、色々な提案がなされていますが、広く受け入れられているものはないのが現状です。したがって、工学、工学者、技術者、工学技術者、科学技術者、工学教育、技術者教育などの用語は絶えずその意味が時代とともに変更改善されています。わが国では通常、工学は、欧米のエンジニアリング(engineering)よりもはるかに広く、かつ理学の分野も含んでしまうような意味合いで使われています。
私たちは、エンジニア(engineer)を工学技術者、あるいは単に技術者と考え、工学や技術業に携わる知的専門職従事者であり、「単なる技術進歩の推進者であるのみならず、その成果が人類・社会に及ぼす影響についても強い責任を持つ自律的な行動者」であると定義しています。
次に、工学と理学の違いについて簡単に考えておきます。自然、人間そして社会の間の成り立ちを考えてみます。自然にはそれを支配する仕組みがあって、社会には生活に対するニーズがあります。自然の仕組みを取り入れて社会のニーズに役立つようなもの作りをするのが人間の役割であり、そのような関係の中で私たちは生活を営んでいます。
理学の役割は、自然の仕組み、自然の現象を理解することで、ものの道理を見極めることが目的です。いろいろな現象がなぜ起こるのか。その原因が何かを突き止めることです。これに対して、工学は社会に有用な人工のもの-人工システム-を創ることを主な目的としています。自動車、家電製品、医療機器を始め、情報機器やソフトなど、それからまたこれらを活用できる環境システムとして、交通、通信、電力などのネットワークなど、私たちが必要とする人工物は限りなく存在します。
さて、理学はものの道理を明らかにすること-ものの解析(analysis)-、工学は物を人工的に作ること-ものの合成(synthesis)-ということですが、上で述べたようにわが国では、ものの合成には解析も必要だとの考え方から、工学が場合によっては理学を含む意味で使われてきました。工学部の研究が他分野に関係するのもこのためです。
最後に、解析と合成という目的の違いがもたらす理学と工学の違いを考えておきましょう。理学ではものの道理を追求するのですから、ただ一つの答えを求めて論理を組み立てます。一方、工学では、ものを創る技術者が自分の個性を発揮し、考えながら仕事をすすめ製品を作り出します。10人の技術者が、同じ目的でものを作っても、それぞれ違ったものができあがるでしょう。工学のおもしろさは、この個性を発揮できる多様さや柔軟さにあるのではないでしょうか?

(注)この節の内容は、17大学工学部工学教育プログラム実施検討委員会のパンフレットや日本工学教育認定機構(JABEE)の用語集を参考にしました。一部これらの資料から引用箇所があります。引用させていただいたことに関して感謝いたします。なお、参考資料は、日本工学教育認定機構にあります。詳しくはこれらの資料を参照ください。

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