【研究成果報告】植物ゲノム編集プロトコルーCRISPR/Cas9による果樹の高効率ゲノム編集

2018年11月8日
報告者

大学院社会産業理工学研究部 生物資源産業学域 准教授 刑部祐里子

 

研究タイトル

「植物ゲノム編集プロトコルーCRISPR/Cas9による果樹の高効率ゲノム編集」

 

研究経緯等

【研究グループ】

  • 徳島大学大学院社会産業理工学研究部 生物資源産業学域 准教授 刑部祐里子
  • Institute of Botany, Chinese Academy of Sciences (China), Professor, Zhenchang Liang
  • 徳島大学大学院社会産業理工学研究部 生物資源産業学域 教授 刑部敬史
  • 農研機構果樹茶業研究部門 上級研究員 西谷千佳子
  • 農研機構果樹茶業研究部門 果樹連携調整役 和田雅人
  • 岩手大学農学部 教授 小森貞夫
  • PLANTeDIT (Ireland), Scientific Officer, Michele Poli ToolGen (Korea), Researcher, Ok-Jae Koo
  • PLANTeDIT (Ireland) CEO & Researcher, Chidananda Nagamangala Kanchiswamy

 

【学術誌等への掲載状況】

Yuriko Osakabe*†, Zhenchang Liang*, Chong Ren, Chikako Nishitani, Keishi Osakabe, Masato Wada, Sadao Komori, Mickael Malnoy, Riccardo Velasco, Michele Poli, Min-Hee Jung, Ok-Jae Koo, Roberto Viola, Chidananda Nagamangala Kanchiswamy*† (†共責任著者、*共筆頭著者) “CRISPR/Cas9-mediated genome editing in Apple and Grapevine”, Nature Protocols, https://doi.org/10.1038/s41596-018-0067-9

 

研究概要

【研究の背景】

地球環境変動や世界人口の増加および経済成長などの様々な問題に対し、農作物の安定的かつ持続的な生産向上は重要な課題の一つであり、様々な有用作物の機能向上や高い生産性を示す作物の開発が求められています。共同研究グループは有用農業園芸作物として果樹について着目し、世界でも広く栽培され大きな市場を持つリンゴおよびブドウ細胞を用いたゲノム編集技術実験の基本プロトコルを示しました。本研究によるプロトコルによって、重要な園芸樹種の新育種技術開発のための応用研究について、積極的に利用することが可能となりました。

【研究の内容と成果】

共同研究グループが示したリンゴおよびブドウ細胞を用いたゲノム編集技術の基本プロトコルは、アグロバクテリウムを介した形質転換法によりリンゴの葉身およびブドウ培養細胞にそれぞれCRISPR/Cas9(クリスパーキャスナイン)注1ベクターを導入し、得られた形質転換細胞の標的ゲノムへの変異を解析する方法(図1; option Aおよびoption B)と、リンゴおよびブドウの培養細胞からプロトプラスト注2を調整し、プロトプラストにCas9タンパク質およびgRNA(ガイドRNA)分子複合体(リボヌクレオプロテイン、RNPと呼ぶ)注3を直接導入する方法(図1; option C)の3つの方法から構成されています。

一般的に、アグロバクテリウムを介した形質転換法はアグロバクテリウム細胞に含まれる植物発現用ベクターの一部がアグロバクテリウムの植物細胞への感染時に植物ゲノムに導入されることにより行われます。アグロバクテリウムを介した形質転換法による本基本プロトコルでは、同様に、リンゴおよびブドウの標的遺伝子に特異的なガイドRNAの設計を行いCRISPR/Cas9ベクターを構築し、アグロバクテリウムによりリンゴの葉身細胞およびブドウ培養細胞にCRISPR/Cas9を導入させます。その後、組織培養により形質転換カルス注4を作製した後、植物体を再生させます。この過程において、図2に示すように、リンゴの組織培養においてCas9の細胞内での発現マーカーとしてGFPを用いることで、Cas9高発現カルスを効率よく選抜させることができます。これにより、比較的困難なリンゴの形質転換における煩雑さを軽減させ、ゲノム編集の効率を高めることが可能となりました(図2)。得られたカルスおよび植物体よりゲノムDNAを単離し変異配列を解析し、ゲノム編集による変異を検出します。

プロトプラストを用いるプロトコルでは、ベクターを用いず、RNP複合体を用いることでCRIPSR/Cas9を直接的に細胞に導入し、ゲノムに外来遺伝子を導入することなく変異された細胞や個体を単離する方法を示しました(図3)。共同研究グループにより示された効率的なプロトプラスト作製方法とRNP複合体の導入方法により、これまで遺伝子導入が困難であったリンゴおよびブドウ細胞を用いてゲノム編集を実施することが可能となりました。また、RNP複合体を用いることで遺伝子組換えでない細胞群を単離することが可能となりました(図4)。


図1.植物ゲノム編集プロトコルーCRISPR/Cas9による果樹ゲノム編集
リンゴ (option A; 組織培養) およびブドウ (option B; 組織培養、 option C;
プロトプラスト) におけるCRISPR/Cas9導入実験の方法と変異解析のスキーム


図2.リンゴにおけるCRISPR/Cas9ベクターの形質転換の流れと変異の検出


 


図3.RNP (Cas9タンパク質およびgRNA複合体) の
プロトプラストへの一過的導入法によるゲノム編集


(図4. RNP (Cas9タンパク質およびgRNA複合体) 導入に用いるリンゴ (a) および
ブドウ (b) プロトプラストおよび導入後のブドウ培養細胞 (c)。赤矢印は変異導入後、
プロトプラストより増殖するブドウ培養細胞


 

 

今後の展望(研究者からのコメント)

植物の基礎研究に重要な技術である組織培養や形質転換法は、リンゴおよびブドウなどの果樹植物では比較的難しく、様々な育種技術の活用が困難でした。共同研究グループによるゲノム編集技術の3つの基本プロトコルを用いることによって、世界的にも重要な園芸樹種の新しい育種技術開発などの応用につながることが期待できます。 

 

参考

本研究は、内閣府戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)およびJST「研究成果展開事業 産学共創プラットフォーム共同研究推進プログラム(OPERA)」研究領域「ゲノム編集による革新的な有用細胞・生物作製技術の創出」(徳島大)などの支援により行われました。

 

補足説明

注1:CRISPR/Cas9(クリスパーキャスナイン)

近年大きく発展してきた生物ゲノム中の標的とする配列を正確に改変させることが可能であるゲノム編集技術の一つである。高い効率で様々な生物に利用することができるため、医学や資源生物学、農学などの様々な分野において広く活用されつつある。

注2:プロトプラスト

細胞壁をもつ植物や糸状菌などの生物において、セルラーゼなどの細胞壁溶解酵素などで細胞壁を分解させた細胞のこと。これによりDNAなどの分子を細胞内に導入することができる。

注3:RNP(リボヌクレオプロテイン)

RNAを含む核タンパク質の総称。Cas9タンパク質およびgRNA分子からなるRNP複合体を用いて細胞に導入することで、ゲノム編集技術に用いられている。主に動物細胞へ利用されているが、植物は強固な細胞壁が存在するために、直接的に導入することが困難であった。

注4:カルス

植物細胞は分化全能性という能力を有しており、組織培養にいおいて植物ホルモンを利用することにより、すでに分化した細胞から脱分化、さらに植物体を再度再生させることが可能である。植物ホルモンやこの脱分化および再生技術は様々な植物種や品種において最適化させる必要がある。カルスは、脱分化状態の細胞であり、分裂のみを行う細胞塊を呼ぶ。