【研究成果報告】TBL1XR1遺伝子のデノボ点変異がウィントシグナリングの活性を変える

2017年6月6日
報告者

大学院医歯薬学研究部 精神医学分野 准教授 沼田周助

 

研究タイトル

TBL1XR1遺伝子のデノボ点変異がウィントシグナリングの活性を変える

 

研究経緯等

【研究グループ】

  • 徳島大学大学院医歯薬学研究部精神医学分野:大森哲郎、沼田周助、木下誠、西晃(現 国立国際医療研究センター病院)
  • 徳島大学大学院医歯薬学研究部人類遺伝学分野:井本逸勢、田嶋敦(現 金沢大学医薬保健研究域医学系革新ゲノム情報学分野)
  • 徳島大学先端酵素学研究所病態システム酵素学分野:福井清、加藤有介
  • ジョンズ・ホプキンス大学、Department of Psychiatry and Behavioral Sciences:神谷篤、Xiaolei Zhu、伊藤侯輝(現 北海道大学病院精神科神経科)、齋藤淳
  • 藤田保健衛生大学医学部精神科:岩田仲生
  • 高知大学医学部神経精神科学教室:下寺信次
  • 長崎大学医学部精神神経科学教室:黒滝直弘、今村明(現 長崎大学病院地域連携児童思春期精神医学診療部)、小野慎治(現 愛野ありあけ病院)
  • 愛媛大学大学院医学系研究科 分子・機能領域精神神経学講座:上野修一、越智紳一郎

 

【学術誌等への掲載状況】

De novo non-synonymous TBL1XR1 mutation alters Wnt signaling activity. Nishi A, Numata S, Tajima A, Zhu X, Ito K, Saito A, Kato Y, Kinoshita M, Shimodera S, Ono S, Ochi S, Imamura A, Kurotaki N, Ueno S, Iwata N, Fukui K, Imoto I, Kamiya A, Ohmori T. Sci Rep 2017; June 6

 

研究概要

【研究の背景】

統合失調症は罹患率1%と頻度が高く、WHOによれば長期的な障害をきたす疾患のうちでトップ10に入る主要疾患であり、思春期から成人早期に発症し、慢性・再発性の経過をたどります。発病に遺伝要因が深く関わっていると考えられていますが、家族の中に発病者がみられないのに統合失調症が発病するケースもあります(孤発例)。本研究では、孤発の統合失調症の発症メカニズムを明らかにするため、日本人の統合失調症患者と精神疾患でない両親の遺伝子配列を次世代シークエンサーで解読・解析しました。

 

【研究の成果】

研究の協力が得られた18組のトリオ(患者とその両親)のエクソン領域の塩基配列を調べることにより、8家系から9つのデノボ点変異を同定しました。これらの内、TBL1XR1遺伝子については、自閉症においてもデノボ点変異の報告があったため、この遺伝子の変異(TBL1XR1 [c.30 C>G (p.Phe10Leu)])(図1)に注目し、構造解析と機能解析を行いました。構造解析では、Leu10モデルではPhe10モデルと比較して周囲の残基との接触が少なくなり(図2)、構造が不安定になることを明らかにしました。機能解析では、TBL1XR1の変異により、TBL1XR1の結合タンパクであるN-CoRへの結合が弱まる一方で、βカテニンへの結合が強まり(図3a, b)、統合失調症での異常が報告されているウィントシグナリングの転写活性が増強されることを明らかにしました(図3c)。これらの研究成果は、統合失調症発症の病態解明に役立つことが期待されます。

図1

 

今後の展望

本研究成果により、日本人の孤発の統合失調症の発病にデノボ点変異(子に生じた親が持たない新たなゲノムの変異)が関与する可能性が示唆されました。本研究で同定したデノボ点変異が、複数の統合失調症患者においても認められるかどうかの検証が必要です。