【研究成果報告】「トマトで高効率ゲノム編集技術を確立 〜受粉しなくても果実を形成する単為結果性を付与する〜」

2017年4月28日
報告者

大学院社会産業理工学研究部 生物資源産業学域 教授 刑部 敬史

 

研究タイトル

「トマトで高効率ゲノム編集技術を確立 〜受粉しなくても果実を形成する単為結果性を付与する〜」

 

研究経緯等

【研究グループ】

  • 大学院社会産業理工学研究部 生物資源産業学域 刑部 敬史
  • 筑波大学 生命環境系 江面 浩

 

【学術誌等への掲載状況】

Risa Ueta, Chihiro Abe, Takahito Watanabe, Shigeo S Sugano, Ryosuke Ishihara, Hiroshi Ezura, Yuriko Osakabe, Keishi Osakabe

“Rapid breeding of parthenocarpic tomato plants using CRISPR/Cas9”

Scientific Reports, doi:10.1038/s41598-017-00501-4

 

研究概要

【研究の背景】

近年、標的とする遺伝子を改変する技術として、部位特異的人工ヌクレアーゼを用いたゲノム編集技術が様々な生物で利用されています。CRISPR/Cas9(クリスパーキャスナイン)は、ゲノム上の標的DNA配列を認識するガイドRNA (gRNA)とゲノムDNAを切断する活性を持つCas9ヌクレアーゼが複合体を形成することにより、狙った部位特異的にゲノムDNAを切断します。続いておこるDNA修復でのエラーにより遺伝子への変異導入が可能となります。gRNAを作り変えることで様々な標的遺伝子に変異導入ができるため、短期間で容易に変異体を作出が可能です。有用な農作物の一つであるトマトの栽培は低温や高温による着果不良の問題が知られており、安定的な果実生産のためには様々な方法がありますが、その一つとして植物ホルモンのオーキシンによる前処理1が用いられてきました。単為結果性トマトは受粉処理などの手間を省くことができるため、大量生産における省力化、安定生産に繋がります。トマトの受粉・着果に関わるオーキシンシグナル伝達経路では、トマトINDOLE-3-ACETIC ACID 9(SlIAA9)が転写抑制因子2として働きます。近年、物理的・化学的な変異によるSlIAA9の遺伝子欠損により、受粉を必要とせずに果実を形成する単為結果性3となるトマトの変異体が報告されました。しかし、SlIAA9遺伝子のみ狙って簡便に破壊し単為結果性品種を作製する方法は、これまで報告されておらず、トマトでの高効率CRISPR/Cas9システムの構築が必要でした。この度、徳島大学大学院社会産業理工学研究部 刑部敬史教授および筑波大学生命環境系 江面浩教授らのグループは、CRISPR/Cas9システムを用いてIAA9遺伝子をノックアウトすることにより、人為的に単為結果性トマトを作製することに成功しました。CRISPR/Cas9ベクターの最適化を行い、トマトにおける高い効率かつ正確なゲノム編集技術を確立しました。

 

【研究の内容と成果】

SlIAA9遺伝子のゲノム編集のために、gRNA標的配列の設計を行いトマトでの変異導入に最適化したCRISPR/Cas9発現ベクターを作製しました。gRNA標的配列の設計には、in silico解析により標的特異性が高くかつオフターゲット効果4が低いと考えられる複数のgRNAを設計しました。それぞれのgRNAを挿入したCRISPR/Cas9ベクターをリーフディスク法によってトマト子葉に導入し、組織培養によってCRISPR/Cas9変異導入トマト個体を再生させ、カルスから再生個体までの各段階において変異を評価したところ、そのうち1種のgRNAを用いた場合にCas9が切断するPAM配列前後で塩基挿入または欠失などが高い効率で生じており、これらの変異をもつ植物は2つの染色体双方に変異が見られるbi-allelic(バイアレリック)5変異体や、1個体中の細胞全てで100%に近い変異など、高い変異導入効率を示す変異体でした。これらの変異体は単為結果性を示すSlIAA9遺伝子のノックアウトトマトであり、CRISPR/Cas9を導入した植物中に高頻度で得られました。さらに、次世代シーケンスを用いてこれらの変異体でオフターゲット効果を解析したところ、オフターゲットへの変異は0%であり、以上から、本研究により、トマトへ高効率の変異導入を簡便に、かつ正確に可能とするCRISPR/Cas9システムの構築が可能になりました。

高効率CRISPR/Cas9によって作製されたSlIAA9ノックアウトは、種子を形成せずに結実した単為結果性の果実や、既に報告されている葉の形態異常も生じており(図1、2)、変異導入を行った当世代で得られた花粉や果実、次世代の種子においても高い効率で変異が生じていました。さらに、CRISPR/Cas9を導入した植物体の次世代個体を解析した結果、葉の形態異常などの形質とともに、DNA上の変異が伝搬されていることが明らかになりました。以上、本研究より高効率CRISPR/Cas9を用いたゲノム編集によって、単為結果性を示すSlIAA9ノックアウトトマトの作出が可能となりました。

図1

 

 

【用語解説】

  • 1オーキシンによる前処理;植物の成長や分化に様々な機能を持つオーキシンは受粉をきっかけに生成される果実の発達に正に働く植物ホルモンです。合成オーキシンは開花前後の花房に散布することで、受粉することなく果実の着果肥大を促進させることに利用されています。
  • 2転写抑制因子IAA9;IAA9はオーキシン応答性遺伝子の転写を活性化する転写因子(ARF8)によく似た構造を持つタンパク質ですが、転写活性化能を持っておらず、ARFはIAA9とダイマーを形成すると機能が抑制され、オーキシン応答性遺伝子の発現が抑制されます。オーキシン存在下では、IAA9が受容体の働きにより分解されるため、転写がオンになります。
  • 3単為結果性;受精が起きていなくとも子房が肥大し、果実が形成されること。単為結果で得られた果実には種子がない。
  • 4オフターゲット効果;gRNAが標的配列と類似したゲノム上の狙っていない配列を認識しCas9が切断し、ゲノム編集による改変をしてしまうこと。
  • 5バイアレリック; 二対立遺伝子。二倍体の生物で1つの遺伝子座位に存在する対立遺伝子が2つであることを指し、両方のアレルに異なる変異が起きていることをバイアレリック変異という。

 

今後の展望

本研究により、トマトにおける高い効率のゲノム編集技術の確立が可能となり、簡便かつ正確にSlIAA9ノックアウトトマト個体を作出することが出来ました。今後、本研究で確立したCRISPR/Cas9システムをさまざまな栽培農作物品種に用いることにより高い効率の変異導入を可能となることや、また乾燥ストレス耐性や物質生産など、様々な作物の有用な形質の獲得に役立てることが出来ると期待できます。

 

参考

本研究は、内閣府 戦略的イノベーショ ン創造プログラム(SIP)「次世代農林水産業創造技術」および株式会社大塚製薬工場の支援により行われました。