【研究成果報告】超巨大ブラックホールのそばに新種の分子ガス雲を発見〜体重が増えると出生率は上がる!〜

2017年4月7日
報告者

徳島大学教養教育院 准教授 古屋 玲

放送大学教養学部 教授 谷口 義明

 

研究タイトル

超巨大ブラックホールのそばに新種の分子ガス雲を発見〜体重が増えると出生率は上がる!〜

 

研究経緯等

星の大集団である銀河には、中心部分がひときわ明るく見える銀河があります。その中心部分は活動銀河中心核と呼ばれています。私たちの天の川銀河から数億光年ほどの近傍宇宙にある銀河を調べると、約1割は活動銀河中心核を持っていることがわかっています。これらの銀河では、中心にある超巨大ブラックホール(太陽質量の100万倍以上)にガスや塵が降り積もり、その時に解放される重力エネルギーを、可視光などの電磁波に変えています。水力発電ではダムから落下した水が解放する重力エネルギーを利用しますが、それと同じ原理です。しかし、質量が非常に重いので、超巨大ブラックホールに落ちるガスによる発電量は、太陽の1億倍から1兆倍以上の明るさにもなります。

ところで、夜空の天の川をじっくり眺めたときに黒いシミのようなものに気がつくかもしれません。このシミは天の川銀河に漂う気体(ガス)と塵のしわざです。ガスと塵は星と星とのあいだに漂っているので、星間物質と呼ばれます。では、活動銀河中心核の周辺にはどのような星間物質があるのでしょうか? 星間物質の成分はほとんど水素ですが、私たちの太陽などの星々を作る原材料なのです。つまり、星は星間ガスから生まれるので、星間ガスの性質を見極めることは非常に重要です。しかし、従来の電波望遠鏡では角分解能(細かな構造を分解して観測する能力で、視力のことだと考えてください)が不足していて、遠くの銀河の中心核付近に存在するガスの性質を調べることは不可能でした。

星間ガスの濃さ(密度)や温度はさまざまですが、星が生まれる星間ガスは密度が高く(水素分子の個数密度>105 cm−3)、極低温(約10 K [ケルビン] =約マイナス260 ℃)の静かなガスです。それらは分子ガス雲を形成して、銀河の円盤部に漂っています。従来の研究で、分子ガス雲の質量とそのガス雲の中で星が1年あたりどのくらい生まれるか(星生成率と言います)には良い相関があることが知られていました。2012年ころにアメリカの天文学者、チャールズ・ラダ(Charles Lada)博士らが見出した関係です。ところが、天の川銀河の分子ガス雲と天の川銀河以外の活発に星を生んでいる分子ガス雲の間には明瞭なギャップがあり、謎とされていました。

 

研究概要

私たちはこのギャップを埋める新種の分子ガス雲を発見することに世界で初めて成功しました。私たちは、アルマ望遠鏡で得られた高解像度の電波観測データを用いて、近傍宇宙の代表的な活動銀河中心核を持つ渦巻銀河 NGC 1068 (= メシエ77 [M 77]、くじら座の方向で約5000万光年の距離にある)の中心核(超巨大ブラックホール)(注1) からわずか50光年の至近距離(天球に投影した距離)にある分子ガス雲の性質を調べてみました。この分子ガス雲は太陽の約20万倍の質量を持ち、活発に星を生んでいます。そして、この分子ガス雲の質量と星生成率をラダ博士らの見つけた相関図にプロットしてみました。すると、見事にギャップを埋めることがわかったのです。ラダ博士の発見したような関係を自然科学では“スケール則”と言います。ところがスケール則はよく考えてみると不思議な関係です。分子ガス雲の質量の範囲をみてみると、約6桁以上もの開きがあるにもかかわらず、単位質量あたりの出生率(比星生成率)は同じであることが分かったのです。この発見で、

分子ガス雲と星生成率の間にあるスケール則が普遍的である

ことが確実になりました。

じつは、私たちがこの研究に取り組んだ動機は、“天文学者としての常識”に基づく陳腐な発想からでした。つまり、こうです。

「活動銀河中心核の周辺にある分子ガス雲は、超巨大ブラックホールの重力場の影響や強烈な電磁波やジェットによる影響を受けているに違いない。だから、天の川銀河にある普通の分子ガス雲とは性質が違っているはずだ」

教科書に基づけば、こんな発想になります。ところが宇宙が私たちに見せてくれた姿はこうでした。

「超巨大ブラックホールのご近所というきわめて過酷な環境においても、今まで知られていたスケール則にしたがって星が生まれている!」

これは、まさに予想を覆す結果でした。その意味では、私たちよりも宇宙が上手だったわけですが、 やはり想定内と思うべきなのでしょう。

大切なことは、今まで知られていなかったスケール則上のミッシング・リンクの発見に至ったことです。星や星団がうまれるプロセスを理解する上で、きわめて大きなステップとなりました。


渦巻銀河 NGC 1068 の銀河中心核(超巨大ブラックホール)の
そばで発見された分子ガス雲の想像図(イラスト:池下章裕氏)

 

今後の展望(研究者からのコメント)

このような研究が可能になったのは、まさにアルマ望遠鏡の類稀なる高い感度と角分解能のおかげです。今回の発見で、宇宙における星生成の原因を統一的に理解する研究への道が拓けてきました。また、他の活動銀河中心核の周辺にある分子ガス雲を系統的に研究することで、活動銀河中心核とその母銀河の進化に関する研究も進展することが期待されます。

この研究成果は、Furuya, R. S., & Taniguchi, Y. “A Massive Dense Gas Cloud close to the Nucleus of the Seyfert Galaxy NGC 1068” として、2016年12月1日発行の日本天文学会の専門誌「日本天文学会欧文報告」に掲載されました (PASJ, 68巻, 103-111頁)。本研究成果は日本天文学会春季年会(九州大学:2017年3月15-18日)における記者会見講演として発表され、読売新聞(東京版および福岡版)およびNHKニュース(九州地区)で報道されました。なお、本研究は日本学術振興会の科学研究費(23244041及び16H02166)の支援を得て行われました。

 

その他参考となる事項
  • (注1) NGC 1068 の中心にある超巨大ブラックホールの質量は太陽の約840万倍です。ちなみに、天の川銀河の中心にある超巨大ブラックホールの質量は太陽の約430万倍です。