最先端研究探訪(とくtalk165号 平成28年10月号より)

2016年10月14日

医療微弱電流による薬物の皮膚からの投与に道を拓く

医療微弱電流による薬物の皮膚からの投与に道を拓く

 

将来、注射器がなくなる!?
(1)アスタキサンチン+ビタミンE

アスタキサンチン+ビタミンE_1

アスタキサンチン+ビタミンE_2アスタキサンチン+ビタミンE_3

小暮先生の研究を3つの段階で紹介します。なお文中、ナノメートルは、1ミリメートルの百万分の1という単位です。

アスタキサンチンは最近、化粧品などのCMでも耳にする成分で、エビやカニといった甲殻類の殻などから抽出される赤い物質です。ゆでると赤くなるのはこのためです。

おなじみのビタミンEは血行をよくしたり、食品添加物の酸化防止剤として広く利用される抗酸化ビタミンとしても知られ、脂肪の代謝、細胞膜の安定化、生殖や甲状腺などの機能にかかわっています。

この二つの取り合わせは、化粧品ではシミ・しわを防ぐ効果があります。先生は両者を同じリポソーム内に入れることにより、足し算以上の協同(相乗)効果があることを発見しました。

リポソームとは、一つの分子上に親水性部分と疎水性部分とを持たせた分子から作られるゴムボールのような複合体で、内部にDNAやタンパク質などを含ませることで、内部の分子を細胞内に導入することができます。

 

(2)ビタミンE+コハク酸

先生は本学卒業以来、抗酸化剤についての研究を続けてこられました。一般に酸化防止剤と呼ばれるものです、食品をはじめいろいろなところで使われています。空気中の酸素で酸化・変質するのを防ぐ薬剤です。

特に化粧品には酸化されやすい成分がたくさん使われているので、酸化すると悪臭を発したり、肌に刺激を与えてしまいます。

先生は、ビタミンEにコハク酸が誘導体としてくっつくと、がん細胞などを殺す効果があることを解明しました。

正式にはトコフェロールコハク酸といい、貝類などのうま味物質です。医薬品ではpH調整に使われます。その他、調味料やメッキなどの工業用、炭酸ガスを発泡する入浴剤など多く使われています。

これをリポソームに似たナノ粒子にしてやると、がんなどの血管の粗いところに貯まりやすい性質(エンハンスト効果)があることがわかっています。脂肪組織も血管の粗い部分があるので、このナノ粒子をとどめることが出来て、さらに脂肪細胞をやっつけることで脂肪組織を小さくできることが期待されます。その後はビタミンEとコハク酸に分解されるので体内への悪影響は残りません。

ここでネックとなるのが、血液中にリポソームなどのナノ粒子を入れる方法が注射によることです。がんなどで炎症を起こした血管はもろくなっているため、他の方法が模索されています。

 

 

(3)微弱な電気が細胞の隙間を広げる!

衛生薬学分野

インスリン封入リポソームのイオントフォレシス後における血糖値の変化イオントフォレシスによる

微弱な電流が皮膚の細胞の隙間を広げるという、先生の画期的な発見は、注射器を使わない「痛くないワクチン」としてマスコミでも紹介されました。
「北海道大学にいるときに、DDS(ドラッグデリバリーシステム)として、電気を使う寄附講座が出来ました。それまで行っていたナノ粒子と電気を組み合わせるという研究に初めて取り組み、京都薬科大学で、電気で皮膚の細胞の隙間が50ナノメートルくらい開くことを発見しました」

従来、分子量が1万以上の物質はイオンフォレシス(電流による薬物の皮膚浸透法)は無理だというのが通説でした。当然先生の作るナノレベルのリポソームでも入らないだろうと思われました。
「既成概念にとらわれずにやったのがよかったのでしょう。それまでイオンフォレシスの実験は切り取られた皮膚を使ってました。つ まり死んだ皮膚だったのです。私は生きたマウスを使ったのです」

この発見により、リポソームのまま細胞の中まで薬物を送り込むことに可能性が開かれました。siRNAという高分子を使うことで皮膚の中の特定の遺伝子の発現も抑制させることができます。しかしなぜ電流によって細胞に隙間ができるのか、という詳しいメカニズムはまだ全部が解明されていません。この研究が進めば、様々な物質を送り込むことができるようになるのでは、と先生は話されています。
先生は、
「電気メカニズムの解明をすすめ、実用化を目指しています。まだまだ何が出てくるかわかりませんが、そのときはその道を行くまでです」と、今後の抱負を語られました。

 

小暮 健太朗(こぐれ けんたろう)のプロフィール

衛生薬学分野 教授 小暮 健太朗(こぐれ けんたろう)

  • 大学院医歯薬学研究部(薬学系)
  • 衛生薬学分野 教授

 

[取材] 165号(平成28年10月号より)