最先端研究探訪(とくtalk163号 平成28年4月号より)

2016年4月20日

研究の最先端を臨床の最前線へ~医工連携によるモバイル型アフェレシス装置の開発~

研究の最先端を臨床の最前線へ~医工連携によるモバイル型アフェレシス装置の開発~

 

より優れた医療機器の研究開発に取り組む
より優れた医療機器の研究開発に取り組む

先端技術を医療現場に届ける方法のひとつに、治療や診断に役立つ医療機器の研究開発があります。
今回紹介するのは、まるで昨年の「下町ロケット」というドラマのような、大学と医療分野の新規参入にチャレンジする中小企業が連 携することによって、これからの先進医療を支えていくアフェレシス装置の研究開発を行っているプロジェクトです。

アフェレシス(分離するという意味)療法の一つに胸腹水濾過濃縮再静注法(CART)があります。
癌や肝硬変によって溜まった胸腹水を体外へ排液し、濾過器で細胞成分や細菌を除去して、濃縮して点滴する治療法です。抗癌剤治療や手術との併用によって末期癌の救命効果があることや、採取した癌細胞の癌ワクチンへの応用の可能性が報告され、これからの癌治療を支える治療法としての必要性が高まってきています。

しかし濾過濃縮する手技が煩雑であることが原因で、施行できない病院や施設も多いそうです。そこで工程を自動化し、さらに大量の腹水処理が可能な新しいCART用装置の開発が望まれています。

岡久先生は、この課題を解決するために、従来の製品や技術に研究成果(副作用の原因解明、目詰り対策、LED殺菌・細胞制御技術など)や工夫を加え、安全で簡単に使用できる、安価な新しいモバイル型医療機器とその周辺機器の研究開発・製品化に取り組んでいます。

平成25年に「課題解決型医療機器等開発事業(経産省)」に採択され、3年間で2億円をかけての新しい装置開発が始まりました。

 

 

コンソーシアムの結成(※1)
コンソーシアムの結成1コンソーシアムの結成2
コンソーシアムの結成3

研究開発に不可欠なのが、大学と連携して医療機器開発に積極的に取り組む、高度な技術と人材を有する企業との連携でした。先生 は沢山の企業を模索する中、「LEDバレイ徳島構想(※2)」の関連企業である(株)タカトリ(奈良県)と出会いました。

同社は、LED半導体や液晶などの製造分野で、世界の9割以上のシェアを占める機器を製造販売している、高い技術力を持った中小会社でした。しかし越えなければならないハードルがありました。
タカトリは医療分野新規参入企業であったため、医療機器の法規制や事業化の知識と経験がなかったのです。また研究者の立場、企業 の考え方の違いもあり、
「激しい議論になることもありましたが、とにかくフットワーク軽く出向いて行って、事業の伴走コンサルなど有識者の指導を受けながら次第に理解も深まり、ほんとうに良いパートナーとなっていきました」
と、先生は感慨深く思い返されます。

 

 

ベイラー医科大学留学中に能勢之彦先生(右)と
ベイラー医科大学留学中に能勢之彦先生(右)と

徳島大学藤井節郎記念医科学センター内に、集中研方式の研究開発室を構えました。これは岡久先生が留学していた「米国ベイラー医科大学人工臓器開発センター」で、人工臓器の父と言われた能勢之彦(1932~2011)先生に学んだものです。
「医学(医学部・病院)と工学(企業・工学部)の医工連携で、研究開発者や大学院生が一つの部屋で研究開発を行うもので、工学系の研究開発メンバーが医療現場を知る機会にもなり、診療科との連携や人間関係の構築と情報交換がスムースになって、迅速な開発が可能となりました」

さらに、徳島大学産学官連携推進部の大学等シーズ・ニーズ創出強化支援事業(平成26年度、文科省)に加わって学んだイノベー ション対話ツール(※3)を応用。
「今までとは異なった着想により、1個のポンプで全ての処理を可能とする『マルチリング方式』が生まれました。また、ダンボール箱などを使ったラピッドプロトタイピング(試作品製作)により、企業メンバーとの打合せ時間が1/10に短縮しました」

 

  1. ※1 コンソーシアム 異なる分野の人や団体が一つのテーマ・目的のために集まること
  2. ※2 LEDバレイ構想 徳島県にLEDを利用する光関連産業の集積を図ることを目的として策定した構想
  3. ※3 イノベーション対話ツール 多様な参加者の対話に基づきノベーションを創出する確率を高めるための、ワークショップにおける具体的な対話の手法・手順

 

 

医療機器開発は誰のためか1
医療機器開発は誰のためか2
医療機器開発は誰のためか3
医療機器開発は誰のためか

世界の医療機器市場は拡大傾向にあります。しかし国内市場は輸入超過が続いており、日本の優れたものづくり技術が十分に活かされていない状況にあります。また、大学も強み・特色の重点化、グローバル化、イノベーションの創出、人材育成機能の強化が必要とされています。
「医療機器開発の原点は、患者さんの命と家族の幸せを守りたいという熱い思いです。また、医療機器開発は、正当な利潤を得るために企業が中心となって行うものです。大学と企業がお互いの立場を十分に理解し、双方のためになる関係を築き、うまく連携していくことが必要です」

徳島大学消化器内科、呼吸器膠原病内科、婦人科と関連病院の協力のもと、チームの力で3年間かけて完成した新しいCART用装置は、さらに臨床評価と改良が進められる予定です。
「医療機器の研究開発を学生教育にも取り入れ、研究室配属の医学科3年生が日本人工臓器学会萌芽ポスターセッションで優秀賞をもらいました。また、診療支援先の公立学校共済組合四国中央病院(愛媛県四国中央市)にも創意工夫の気持ちが芽生え、次第に活気が生まれてきました。大学の3本柱は、研究、教育、地域貢献です。
医療機器開発を単なるものづくりに終わらせることなく、医療現場の将来ニーズを抽出し、大学での研究成果のプラットフォームとして医療現場に届け、教育にも活用して、学会や論文を通してアカデミアの立場で広めていくことが我々の役割です。今後も、医療機器開発の素晴らしさを知った人が一人でも増え、日本の医療機器産業が活性化することを願っています」
と、今後の抱負を熱く語ってくださいました。

 

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岡久 稔也(おかひさ としや)のプロフィール
 岡久 稔也(おかひさ としや)
  • 大学院医歯薬学研究部
  • 地域総合医療学分野 特任教授

 

[取材] 163号(平成28年4月号より)