最先端研究探訪 (とくtalk155号 平成26年4月号より)

2014年4月7日

核酸で近未来型のくすりを創ろう!

私たちが健康な日常生活を過ごすためには、時として薬の力が必要になります。今、私たちの国では約一万八千品目の医薬品が使われているそうです。しかしまだ治療薬の見つかっていない沢山の疾患があります。また現在使われている医薬品の殆どが低分子有機化合物です。

南川先生の研究室では、これまでの創薬概念と異なるアプローチで近未来型の創薬研究を行っています。それが「核酸創薬」です。

Q:ところで核酸ってなんですか?

A:私たちの体の中にあるDNA(デオキシリボ核酸)やRNA(リボ核酸)のことです。私たちの体は約60兆個の細胞から出来ていますが、その一つ一つにDNAが入っています。このDNAの情報は、一旦RNAに写され、最後に私たちを形作るタンパク質が合成されます。例えると、細胞の中のDNAが設計図で、タンパク質が製品のようなもので、この設計図を受け継いでいる親子で姿形が似ていることが理解できると思います。すべての生物は、DNA→RNA→タンパク質という流れ(これをセントラルドグマという)で生命活動を営んでいますが、例えばガンでは、設計図のDNAが傷ついてしまうことによって間違った情報がRNAに写され、その結果、病気を引き起す悪いタンパク質がどんどん作られてしまうわけです。

Q:じゃあその悪いタンパク質を無くしてしまえば良いわけですね?

A:それが従来の医薬品です。ただ一旦出来てしまったタンパク質を体の中からなくす事は出来ないので、タンパク質に結合してその働きをとめるわけです。テレビのコマーシャルで、凹型のタンパク質に凸の薬成分がはまり込む、というアニメーションを見たことがあるでしょう。つまり従来の医薬品は、タンパク質と相互作用(鍵と鍵穴のような関係)して効果を発揮するものが殆どで、その成分は鍵穴にぴったりはまるような形をした低分子有機化合物というわけです。ただそれを見つけるためには何千何万の化合物から鍵穴にぴったり合うものを探さなければなりません。それが創薬研究の難しいところです。

Q:核酸創薬はどこが従来型の創薬と違うのですか?

天然型核酸と4ʼ-チオ核酸の構造

A:一言でいうと、その悪いタンパク質を作らせないようにその元となるDNAやRNAを叩くというものです。一つのDNAやRNAから沢山のタンパク質が出来るわけですから、その元を叩けば非常に効率が良いですよね。今、生命科学研究が進んできていますから病気の原因となる遺伝子(DNAやRNA)の配列は簡単に知ることが出来ます。これが核酸創薬の最大の特徴です。つまりいちいち鍵穴に合う化合物を探す必要はなく、原因となる遺伝子配列さえ分かればそのDNAやRNAを叩くことが出来るわけです。

Q:先生の核酸創薬研究をもう少し分かり易く教えて下さい

A:DNAやRNAはたった4種類の核酸塩基(A、G、C、T(RNAの場合TがU))が一列に並んだ生体高分子です(図1左)。ただこの並びがとても重要で、人によって、また健常人と病気の人によって並びが僅かに違っています。核酸創薬とは、この僅かな違いを識別して悪い遺伝子だけをブロックあるいは分解する手法で、それをDNAやRNAと同じ核酸分子によって行おうとするものです。

二重らせん構造をもったDNAをご覧になったことがあると思いますが、DNAにはAはTと、GはCと必ずマッチするという特異性があります。RNAの場合は、TがUとなっていますが基本原理は同じです。核酸創薬はこの特異性を利用しており、病気の原因となる遺伝子配列だけにぴったりマッチする(相補的な)核酸分子を作れば良いわけです。

原理は非常にシンプルで、これがうまくいけばすべての病気に適応できると思われます。ただ核酸分子は非常に不安定な物質です。つまり、くすりとして投与しても体の中であっという間に分解されてしまいます。そこで私たちが行っているのが、有機化学の力で人工的な核酸分子(疑似核酸)を合成し、それを使って悪いタンパク質を作る遺伝子をブロックするのです。ここで大切なのがあまり分子構造を大きく変えてしまうとその疑似核酸がDNAやRNAに特異的(相補的)に結合できなくなってしまうという点です。私たちは、天然型核酸分子との“生物学的等価性”ということに着目し、RNAやDNAの糖部環内の酸素原子を硫黄原子に置換した「4’ -チオ核酸」を考案しました(図1右)。天然型核酸分子と比較して、酸素原子が硫黄原子に置き換わった非常にシンプルな化学修飾ですが、この僅かな違いによって分子の安定性が600倍以上も向上しました。また標的となる遺伝子にもより強く結合できることが明らかになりました。加えて、私たちの期待した“生物学的等価性”も発揮され、核酸創薬の有用な候補分子であることが明らかになってきています。

研究風景  研究風景

Q:最後に先生のこれからの目標をお聞かせ下さい

歯周病の検査では、歯周ポケットの深さを測定したり、レントゲン写真で歯槽骨の状態を診断したりします。歯周ポケットとは、炎症によって歯と歯肉の境界部の組織が破壊されてできる深い溝のことです。健康な人では約1〜2mm 程ですが、歯周病にかかると、この溝はどんどん深くなり、3〜4mm 以上で病的な歯周ポケットになります。40代以上の人では、半数を超える人が歯周ポケットなど何らかの歯周病の所見をもつと言われています。

A:私たちの研究は“核酸をくすりにする”、という非常にチャレンジングなテーマです。残念ながら、我が国の製薬企業はなかなか低分子創薬からの脱却ができません。だからこそ大学のようなアカデミア機関で挑戦すべき研究だと考えています。私たちの研究だけではとても医薬品開発には至りませんが、私が籍をおく蔵本キャンパスは様々な分野の専門家の宝庫です。こういった研究者と協力することでアカデミア発の核酸創薬を実現したいと考えています。

研究風景  研究風景

 南川 典昭のプロフィール
南川 典昭
  • 大学院ヘルスバイオサイエンス研究部
  • 創薬資源科学部門 医薬資源科学講座
  • 生物有機化学分野(薬学系) 教授
  • 1964年   兵庫県生まれ
  • 1987年   3月 北海道大学薬学部卒業
  •              4月 北海道大学薬学部大学院 修士課程進学
  • 1988年   7月 北海道大学薬学部 教務職員
  • 1993年   4月 北海道大学薬学部 助手
  • 1993年   9月 薬学博士(北海道大学)
  • 1995年   10月 米国ペンシルバニア大学化学科 博士研究員(1997年10月まで)
  • 1998年   4月 北海道大学大学院薬学研究院 講師
  • 2001年   4月 北海道大学大学院薬学研究院 助教授
  • 2009年   4月 徳島大学大学院ヘルスバイオサイエンス研究部(薬学系)教授

[取材] 155号(平成26年4月号より)