最先端研究探訪 (とくtalk152号 平成25年7月号より)

2013年7月19日

大学院ソシオ・アーツ・アンド・サイエンス研究部 基礎科学研究部門 自然科学分野 准教授
伏見 賢一[准教授] ふしみ けんいち

宇宙を存在せしめる物質とは?永遠のロマンに挑む

宇宙は何から出来ているのか?

宇宙、それは最後のフロンティア(開拓地) -アメリカの有名なSFドラマ「スタートレック」の冒頭のナレーションです。宇宙は無始無終である、との生命観を表したのは、三千年も前の仏教です。しかし無数の星の間に広がる広大な暗黒の空間は何なのでしょう。

私たちの太陽系では、地球は太陽の周りを約365日で回っています。太陽に近ければこの日数は短く、遠ければ長い、というのが物理学の常識的な考え方です。この法則は太陽系以外の恒星や惑星系でも同じですが、太陽が集まった銀河系や銀河系が集まった銀河団になると不思議なことにどの銀河も同じスピードで回っているということが観測され、そこに何か見えないものが存在しなければならないと考えられました。

暗黒物質の存在を最初に唱えたのは、1934年、スイスの天文学者フリッツ・ツビッキーです。彼は、銀河団の全質量をそこに存在する銀河の運動から調べ(推定)、銀河の数や銀河団の光の量などと比較し、その結果宇宙には、光学的に観測できるよりも400倍もの推定される何か(質量)が存在することを発見しました。

さらにアメリカの天文学者ヴェラ・ルービンが1970年代に、銀河の回転速度の観測などから、光学的に観測できる物質の約10倍もの物質が存在するという結果を出しました。そして光を出さずに質量のみを持つ未知の物質が暗黒物質と名付けられたのです。

何らかの、光を出さず吸収もしない謎の物質が存在しなければ、銀河団を互いに引き寄せる十分な質量や重力に及ぼすバランスの説明が出来ないことから、いかなる電磁波を用いても見るこのできないその物質を「暗黒物質」としたのです。暗黒物質は一つの物質の名前ではなく、様々なものが考えられています。

全世界で何組かの研究チームがこの未知の物質の発見のために競っており、日本で暗黒物質研究の第一人者として、その存在と発見に取り組んでいるのが伏見先生です。

暗黒物質とは何か?

ビッグバン宇宙論は宇宙の誕生説として、宇宙の年齢を137億年と推定していますが、そこから導き出される宇宙を構成しているものは、我々が知る通常の物質約4%と合わせた「暗黒物質」が約30%、残り70%はエネルギーのようなものではないかと考えられています。

ではいったいこの「暗黒物質」の正体は何でしょう。現在の所、我々がまだ発見していない未知の素粒子であろうという 考えが有力です。既に知っている素粒子では前述のとおり宇宙全体のわずか4%しか説明することができないからです。

伏見先生が着目しているのは素粒子論からの候補「WIMPs」と呼ばれるものですが、暗黒物質がいかなるものであれ、仮定や仮説、推測ではなく「私たちの目に見える形」にしなければ証明されません。

暗黒物質は宇宙のどこにでも存在するもですから、実は日常的に地球にも降り注いでいます。と言ってもその数は、砂浜の中に1つだけ埋まっているいるダイヤモンドを探すより低い確率なのだそうです。そんなに見つけにくい暗黒物質を、世界中の研究チームが追いかけてるのです。

暗黒物質をとらえろ!

 

伏見先生が、8年の開発期間を経て完成させたのが、先生オリジナルの暗黒物質を捕捉する装置「ピコロン」です。写真はクリーンルームの外からの撮影なのでわかりにくいかもしれませんが、タブレット型コンピュータぐらいの大きさのパレット状のものです。内容は明かせませんが、この盤面に暗黒物質が当たると光るようになっています。世界でもオンリーワン、ナンバーワンと自負しています。

しかし先に書きましたように、砂浜のダイヤモンドですから、砂粒を上手に選別しなければなりません。そこでこのパレットを数万枚積み重ねて体積を稼ごうというのが今後の目標です。たくさん積み重ねることによって選別力が上がってWIMPsとそれ以外のノイズの違いをはっきりと見分けることができるようになります。先生の研究により、一枚あたりの単価はおどろくほど安価に押さえられたそうですが、それでも数万枚となると桁が違ってきます。

「やっとここまでたどりつき、しかもスタートしたばかりと言えるでしょう」

と、伏見先生。20年近く進めてきた研究が、日の目を見るかどうかは今後にかかっています。

「研究予算を得なければなりません。ニュートリノの研究などもそうですが、私たちの研究は、直接目に見えて人類にどのように貢献しているのかわかりにくいので大変ですが、次世代へ次世代へと受け継がれていく中で、未来に結晶してくるものです。生涯をこの研究と大きなロマンにかけていきたいと思っています」

先端の見えない最先端研究。それは大いなる情熱の中にあるようです。

伏見 賢一のプロフィール

  • 1989年 3月   関西学院大学理学部 物理学科 卒業
  • 1994年 3月   大阪大学 大学院理学研究科博士
  • 後期課程 修了
  • 学位博士(理学)(大阪大学)(1994年3
  • 月)理学修士(大阪大学)(1991年3月)
  • 1994年 4月   文部省学術振興会特別研究員(PD)
  • 1995年 4月   徳島大学講師、総合科学部自然システム
  • 学科物質科学講座
  • 2001年 4月   徳島大学助教授、総合科学部自然システ
  • ム学科物質科学講座
  • 2007年 4月   徳島大学総合科学部 准教授
  • 2009年 4月   徳島大学大学院ソシオ・アーツ・アンド・サ
  • イエンス研究部 准教授
  • 専門分野      実験核物理学、宇宙物理学(実験)

[取材] 152号(平成25年7月号より)