最先端研究探訪 (とくtalk151号 平成25年4月号より)

2013年4月22日

大学院ソシオテクノサイエンス研究部 エコシステムデザイン部門 教授
山中 英生 [教授] やまなか ひでお

 

命を守る交通計画の最先端へ

 

 

自転車の安全をめざして

ここ数年、事故全体が減少している中で、自転車による交通事故はその割合が増加しています。自転車の安全には、使う人のマナー教育だけでなく、道路や標識などの都市そのものの見直しも重要となっています。自転車は、車やバイクと一緒に『道路』を走るのは危険と感じる人は多いでしょうが、実は『歩道』を走るのも危ないとわかってきたのだそうです。自転車の事故は70%近くが交差点で起こっているそうです。

一昨年、警察庁は『自転車は車両で、本来の走りを求める利用者は歩道以外=車道を通行する』という通達を出し、マスコミでも少なからず自転車による交通事故のニュースが取り上げられ注目されています。

しかし狭い日本の道路事情の中で、車道に自転車レーンを設置したり、自転車用に道路を拡げることは簡単なことではありません。山中先生は都市交通計画(UrbanTransportPlanning)を専門として取り組んでおられますが、中でも自転車の安全について、よりよい方策を模索しながら研究を進めています。


(写真1)

先生が着目したのは、専用レーンのような時間のかかる仕事とは別に、標識(サイン)等により、自転車に安全な『利用のしかた』を現地で明確に示すことでした。「このことに気づいたのは研究室の中国人留学生が、フランスでとってきた写真を見たときでした。安全性からは問題あるとされている双方向の自転車道の交差点ですが、そのことを意識してか自転車への指示が(道路に)明確に示されていて、車にも自転車の走行方向を伝えようとしているのです。使用されているブルーグリーンをベースカラーにした自転車マークと矢印が繰り返されることで、通行方法の情報が自然に伝わる能力(インフォマティビティ)が見事に生まれています」(写真1)

 

自転車先進国に学ぶ


(写真2)

その後、実際に現地を訪れてフランス西南部、大西洋側でスペインに接する観光地ビアリッツから隣接する小都市バイヨンヌへとつながる自転車道を走りました。四角いグリーンベースに自転車マークを入れるサインは、フランスではほぼ統一して自転車空間での通行方法を示す道具となっていたのです。(写真2)

先生は、日本の、歩行者の4倍の速度をもつ自転車が様々な方向から現れる『交差現象』の複雑な交通システムに、「いくら専用レーンを作っても市街地で自動車と自転車の交差を無くすなどということは不可能に近い。であるなら『交差するところで注意すべき方向をなるべく単純にする』とともに交差する場所では『自転車や自動車に交差することを認識させる』といった戦略が重要」と指摘しています。

この着想は『一方通行の自転車レーン』を施策の中心として、国土交通省・警察庁との合同による『安全で快適な自転車通行環境の創出に向けた検討会』で『自転車レーンは交差点内では法定外表示の矢羽根マークでつなげる』という交差点設計案に実現されています。(図1)

フランスに見られるような、カラーをベースにしたピクトサインを使って自転車通行方法を現地で示す方法をシステム化できないか。先生の研究のひとつのテーマです。(図2)

それでは先生の研究室では、具体的にどのような研究がなされているのでしょうか。まず活躍しているのが、室内に設置された自転車の走行シミュレータです。(写真3)
実際に街中を自転車で走る模様を見ながら、どのようなサインが目に付きやすいか。どんな位置、大きさ、間隔、高さなどのデータを出していきます。

 


(図1)


(図2)


(写真3)

 

現場での様々な試み

(写真4)

もちろん現地での調査は欠かせません。また徳島市・そごうアミコビル国道192号線側のように、カラー舗装やサインがすでに実施されたものもあります。(写真4)。

自転車を交通法の通りに『車道を通行させる』ことを明確に示すことで、自転車をきちんと通行させたり、歩道から飛び出してくる自転車を遠くからでも見えるようにすることで、 自動車からの安全も計ることが出来ます。

自転車の走行を注意するサインは、通行の位置と方向を意味する青色矢羽根型の路面表示をデザインし、これを連続して設置するという方法が考えられます。手前のサインで意味を理解して、次に同じものが前に続いていることに気づくことで自転車は自ずとルールを理解するというものです。

路面設置のサインを大学構内で実験して、コストと連続感・見やすさから高さや幅、間隔などを決めました。192号線では歩行者と自転車を分離する柵設置後、遵守しない自転車への不満や自転車同士のすれ違い時の危険感で反対の意見も多く聴かれましうたが、矢羽根サインを始めとする改善策を実施することで遵守率が上がり、反対意見の率も減ったそうです。「自転車の通行空間はいまのところ3つのルールが適用されています。車両としての利用が許される車道部、歩道上で自転車の通行位置が指定されているところでは歩行者優先ですが,自転車は適切な速度,時速10kmぐらいで通行できます。その他の歩道は徐行が基本です。

このルール自体への疑問は多く聞かれますが、自転車の課題が生じる場面では、少なくともこのルールを現地で明確に示すことをすべきだと私は考えています。重要なのは、効率的でインフォマティビティ(情報提示性)に富む方式を定めて、『ルール』としての周知を進めるべきと考えています。ピクトデザインやカラーの全国統一にこだわるよりも、ルールの明示システムを統一することを進めるべ きではないでしょうか。 ただし、歩行者優先を示すサインのデザインはまだ検討しなくてはならないと考えています」

実は日本の自転車は世界でも相当に高い利用状況であるという統計があります。また国内でも四国の4県は上位に位置する自転車利用率なのです。

山中先生の研究は、自転車に着目しながら、歩行者にも車にも安心で安全な交通社会を実現していくためへ大きな期待が寄せられています。

 

山中 英生のプロフィール

  • 1980 年 3月  京都大学工学部
  • 交通土木工学学科卒業
  • 1982 年 3月  京都大学工学研究科
  • 修士課程修了
  • 1983 年 4月  京都大学助手
  • 1989 年 8月  徳島大学工業短期大学部
  • 助教授
  • 1993 年10月 徳島大学助教授
  • 1997 年 4月  徳島大学教授

[取材] 151号(平成25年4月号より)