最先端研究探訪 (とくtalk150号 平成25年1月号より)

2013年1月25日

大学院ヘルスバイオサイエンス研究 生体情報薬科学部門 分子情報薬学講座 製剤設計薬学分野(薬学系)教授
斎藤 博幸 [教授] さいとう ひろゆき

 

コレステロールをコントロールする

 

斎藤 博幸

 

善にも悪にもコレステロール

私たちの健康を左右する物質の一つであるコレステロールには、善玉・悪玉があるということは聞いたことがあると思います。「悪玉(LDLコレステロール)」と呼ばれていますが、肝臓で作ったコレステロールを体内の細胞へ運ぶ役割があります。また「善玉(HDLコレステロール)」はいろいろな臓器で使い切れず余ったコレステロールを肝臓へもどす役割があります。どちらも人には必要な役割を持っているのです。ところが「悪玉」が血液中で過剰になると、血管の壁にコレステロールがたまってしまい、動脈硬化などを引き起こします。そのためにLDLコレステロールが「悪玉」と呼ばれるのです。

この「悪玉」は薬や食事療法で下げることが出来ますが、「善玉」を増やす薬はまだ開発されておらず、運動をするのが良いとされていますが、病気の人や身体の不自由な人には困難です。

その「善玉」を増やす研究に取り組んでいるのが斎藤先生です。キーとなるのが「アポリポタンパク質」で、さらに血液中や脳内で「善玉」を作ったり、コレステロールの調整をしているのが「アポA-I」と「アポE」というタンパク質です。

「アポA-I」は「善玉」が少なくなる原因に大きな関わりがあるのです。コレステロールは脂質(油系)のため水には溶けにくい性質がありますが、細胞の膜のなかには多く存在します。このコレステロールを細胞の膜から運び出す働きをするのが「ABCトランスポーター」と呼ばれる「ABCA1」、つまり「運び屋タンパク質」です。

 

パートナーを得る

長尾耕治郎 助教

長尾耕治郎 助教

斎藤先生はご自分の研究に「ABCA1」の研究が欠かせないことから、今年に入って、京都大学物質細胞統合システム拠点(iCeMS)の長尾耕治郎(ながお こうじろう)助教を招きました。長尾先生の参加で、斎藤先生の研究は飛躍的に進んでいこうとしています。

「ABCA1」はコレステロールを細胞の外に運び出して「アポA-I」に受け渡すことで「善玉(HDL)」を作り出します。このことにより血管などの末梢組織から余分なコレステロールを取り除き、動脈硬化などの予防や治療に役立つことになります。

ここまで書くともう簡単なようですが、人の身体というのはまだまだ未知の世界です。

運び屋によってコレステロールが「アポA-I」に受け渡されるのはわかっているのですが、「善玉」がどのようにして形成されるのか、そのメカニズムはまだ全容が明らかではないのです。

斎藤先生と長尾先生は、物理化学、生化学、細胞生物学などの多面的な研究を展開しています。これはまだ日本でもあまり取り組まれていない研究なのです。

アポA-IとABCトランスポーターA1との相互作用による初期型HDL形成のモデル
アポA-IとABCトランスポーターA1との相互作用による
初期型HDL形成のモデル

 

 

臨床への応用目指して

多くの研究の中には、結果がわかっているのにその仕組みがわからないものが多くあります。人の身体の不思議なところですが、その仕組みの一つに、血液脳関門という首のところに関所のようなものの存在があり、同じ物質でも頭部に運ばれるものと入れないものを区別しているのです。「アポE」は「アポA-I」と同種のタンパク質ですが、脳内に多く存在し、異常を起こすとアルツハイマー病などの原因になります。

先生は、この「アポEアイソフォーム(※遺伝子多型)」の構造や脳内の「善玉コレステロール」の代謝のしくみについて、アルツハイマー病などの神経変性疾患との関連に着目した研究も行っています。

「私たちの研究は今世紀に入ってからやっと成果が見え始めたところです。しかし長尾先生に来ていただいて、研究も加速していくと思います。研究者として、臨床の場で早く使えるものにしたいというのは共通の思いでしょう。まず目標とするのは、HDLの中に薬剤を入れて運ぶことが出来ればということです」

斎藤先生は、基礎薬学、企業での製薬・創薬、国の機関での薬の品質や安全性、等々、様々な角度から薬学に携わってきました。アメリカで現在の研究に本格的に取り組み始め、現在に至っています。先生の研究は、脂質異常症やアルツハイマー病など、多くの現代人が抱える病気の治療に大きな期待が寄せられます。

 

 

 

※遺伝子多型

遺伝子の塩基配列は多種多様で、人口の1%以上の頻度で存在する遺伝子の変異のこと。

 

斎藤 博幸のプロフィール

斎藤 博幸

  • 略歴 Profile
  • 1986 年 3月  京都大学薬学部薬学科卒業
  • 89 年 3月  京都大学大学院薬学研究科
  • 修士課程修了
  • 89 年 4月  大日本製薬製品研究所
  • 製剤研究部 研究員
  • 95 年 4月  日本学術振興会 特別研究員
  • (京都大学大学院薬学研究科)
  • 97 年 3月  京都大学大学院
  • 薬学研究科博士後期課程修了
  • 博士(薬学)取得
  • 97 年 4月  国立医薬品食品衛生研究所
  • 大阪支所 研究官
  • 2000 年 7月  米国ペンシルバニア大学医学部・
  • フィラデルフィア小児病院研究所
  • 博士研究員(2001年7月まで)
  • 02 年 4月  国立医薬品食品衛生研究所
  • 大阪支所 室長
  • 04 年 1月  フィラデルフィア小児病院研究所
  • リサーチアソシエート
  • 05 年 4月  神戸薬科大学
  • 薬品物理化学研究室 教授
  • 10 年 4月  徳島大学大学院
  • ヘルスバイオサイエンス研究部
  • 製剤設計薬学分野(薬学系) 教授

 

[取材] 150号(平成25年1月号より)