最先端研究探訪 (とくtalk146号 平成24年1月号より)

2012年2月2日

大学院ソシオテクノサイエンス研究部 情報ソリューション部門
知識情報処理大講座
佐藤 克也 [講師] さとう かつや

 

細胞の研究に生体力学からアプローチ

 

 

独自のマイクロマシンを開発して研究

生命工学系には医学系とは異なる視点があるものの、その共通性において、共同で研究すれば新たな可能性が広がっていくのではないでしょうか。今回紹介する佐藤先生もそのようなことを模索しながら、バイオメカニクス(生体力学)という比較的新しい分野から、独自の研究を進めています。本来、医学や生物学が専門としてきた分野に、なぜ工学系、しかも力学という、一見無関係のような研究が参入したのでしょうか。

私たちの身体を構成する細胞。その細胞がどのような働きをしているのか、ということを考えると、例えばタンパク質や分子、遺伝子といった観点からの研究と思われがちです。しかし身体(細胞)には常に何らかの力(圧力や重力、張力など)が加わっているのです。これらの力の作用が細胞、ひいては生体の活動に大きな影響を与えていることは経験的に知られてい ますが、ではどのような影響があるのか、それを解き明かす一つの切り口として力学からの視点で迫ってみようというのが佐藤先生の考えです。

力学は機械工学の基本です。この奥深い学問を、生体の研究に応用するそれがバイオメカニクスです。
「バイオメカニクスの世界に入ったのは大学の卒論がきっかけでした。しかし工学部の機械工学科では細胞や生体に関する知識を講義で学ぶわけではありません。研究を進める中で必要と感じる知識は勉強してきましたが、それでも十分とは言えないと思います。理想的には医工連携の研究で意見や知識を共有しながら進められるといいのですが」
という先生は、山口大学時代にはその医工連携の組織に所属していました。
「徳島大学の医・歯・薬系学部は非常に素晴らしいところなので、ぜひ一緒に研究できたらいいですね」

目下の先生の研究の中心は、骨の細胞です。骨には骨を作る細胞と壊していく細胞があります。固くて、一生変わらないような印象のある骨ですが、これらの細胞によって常に作り変えられていて数年間で全て入れ替わっています。骨は運動などにより力が加わると太くなっていきます。逆に宇宙空間のような無重力状態におかれると、もろく弱くなってしまいます。

このような、骨を作ることと壊すことに対して、力の作用が影響していることなどはすでにわかっていることですが、その素過程となる細胞の機能、言い換えれば細胞がどのように力を感じ取って、自らの活動を調節しているのかについては、未だ解明されていない点があります。

 

カルシウム応答

ひずみ測定

 

研究機材の開発から

骨をつくる細胞(骨芽細胞)は約50〜100ミクロン、毛髪の太さの半分ぐらいの大きさです。この細胞を引っぱって力を加えると、細胞の内部がどのように変形して、どのように反応するのか。このような研究のために不可欠なのが機材です。従来は非常に細いガラス製の針のようなもので細胞を突っついたりしていましたが、骨は組織全体が押されたり引っぱられたりしているため、細胞の局所を変形させる実験系では実際の状況とは違っています。細胞に力を加えるための既製品の機械もありますが、大型で高額な上、小さな細胞を詳細に観察するような研究には使い勝手が悪いため、先生は山口大学の南和幸教授と共に、わずか2ミリ角の中にマイクロチップと細胞を引っぱるアームを取り付けたマイクロマシンを開発しました。MEMS(メムス=マイクロ・エレクトロ・メカニカル・システムズ)と呼ばれる技術で、光で固まる樹脂を使った、携帯電話やパソコンの集積回路を製作するための技術を応用したものです。

実物を見せていただきました。やっと目に見えるほどのマシンには、細胞を引っぱるアームがついており、これを顕微鏡の画面をパソコンで見ながら、針で動かすとアームが駆動されるようになっています。このマシンを0から開発を初めて5年、まだまだ改良を続けているそうです。

 

 

再生医療の新たな技術へ

中学の時に、ロケットを作りたくて目指した工学部。大学も3年間は普通に機械工学を学びましたが、4年の時、卒業研究のために選んだ研究室の助教授(現京都大学再生医科学研究所、安達泰治教授)がバイオメカニクスの研究をしていました。当時はガラスニードルで細胞を押したりして、その応答を観察していたそうですが、佐藤先生もこの世界にのめりこんでいきました。
「恩師が良かったんですね。バイオの研究をしていなければ、今頃はどこかの自動車メーカーで開発 をやっていたかもしれません(笑)」

生まれも育ちも徳島なので、徳島大学へは里帰りのようなもの。最近、お姉さんが実家に残したピアノを趣味で習い始めました。
「小学生レベルですが、いい気晴らしになっています」

このようにして細胞の研究に、医薬品や遺伝子操作によるコントロールに加えて、力学(バイオメカニクス)という新しい分野が進出し、さらなる進展が期待されます。
「骨を作る細胞の力を感じ取るメカニズムの解明は、骨や歯の疾患の治療に役立つことでしょう。骨折なんかが早く治ったりするかもしれません。めざすは再生医療の分野です。iPS細胞から分化誘 導させた骨芽細胞に所望の骨を形成させるための制御因子として力の作用が利用できるかもしません。課題はまだまだ山積ですが、少しでもお役立てるようにがんばります」

 

佐藤 克也のプロフィール

  • 1977年 4月 徳島県生まれ
  • 1996年 3月 徳島県立城ノ内高等学校 卒業
  • 2000年 3月 神戸大学 工学部 機械工学科 卒業
  • 同大学院 自然科学研究科 機械工学専攻 修了
  • 2005年 3月 同大学院 自然科学研究科
  • 博士後期課程修了、博士(工学)取得
  • 2005年 4月 山口大学 助手(工学部 機械工学科)
  • 2006年 4月 同大学助手(大学院医学系研究科 応用医工学系専攻)
  • 2007年 4月 同大学助教(同)
  • 2009年 3月 徳島大学講師(大学院ソシオテクノサイエンス研究部 情報ソリューション部門)

 

[取材] 146号(平成24年1月号より)