最先端研究探訪 (とくtalk143号 平成23年4月号より)

2011年4月14日

大学院ヘルスバイオサイエンス研究部臨床栄養学分野
武田 英二[教授] たけだ えいじ

 

栄養学から病気の治癒・予防を考える
日本で唯一の医学部栄養学科として医療に貢献できる栄養学を

 

栄養を学問にしていく

栄養学というイメージから、栄養士や栄養管理士は調理関係の仕事を思い浮かべる人が多いかもしれません。もちろんそういう内容も大切なことではありますが、栄養(食物)というものが、もっと直接私たちの身体や、さらに精神の健康まで関わっているとしたら、この分野の研究がどれだけ深いものか、今回の取材を通じて認識させてもらいました。

大学病院は各地にありますが、皆さんは日本の大学で、医学部栄養学科は徳大にしかないことをご存じでしたでしょうか。栄養士などを育成する学科はありますが、これを科学のレベルで研究して、病気の治療や予防といった医療の現場まで踏み込んでいるのが、日本唯一、徳大の栄養学科なのです。

武田先生を科長とする同学科は、身体的な影響だけでなくストレスの制御など精神面まで研究を進めている、日本のエキスパートです。

中国には医食同源という言葉がありますが、昔から食物は栄養としてだけでなく、漢方のように医薬品としても用いられてきました。化学合成された薬に比べて効き目はゆるやかではありますが、副作用などが少なく、その歴史は人の経験だけに頼ってきたものです。また最近注目されている『食育』は、まさしく栄養学の舞台です。単に栄養のバランスを考えた献立を考えるということではなく、人の身体や子供の成長にどれだけ食生活が大切であるかを科学的に実証し、裏付けをして、心身ともに正しい方向に導いていくことが、これからの栄養学に求められ、期待されています。

プロフィールにあるように武田先生には小児科の医師の経験があり、食育の大切さを実感していました。しかし先生が栄養学科に入ったときはまだ、栄養を科学するということがあまり認識されていませんでした。

「何を食べたら良いのか、キーワードはバランスと適量です。栄養だけでなく量やカロリーなど全てを評価して、しかも個々の身体にあった食材や献立を考えなければなりません。そのために製薬とは違った角度から分子や遺伝子レベルの研究にも取り組んでいます」と、栄養を学問にしていくことから取り組み、情報を国内はもとより世界に発信しています。

 

栄養学を基本に考える

2003年には『21世紀COEプログラムに『ストレス制御をめざす栄養学』のテーマで採用されました。最初は審査員たちも栄養学からそんなことが可能なのだろうかと首をかしげていたそうです。武田先生を中心に徳大の先生方でチームを結成され、「栄養学・医学・薬学研究者が協力して、生体でのストレス反応を客観的に評価する方法を確立し、ストレスを制御する機能性食品や栄養管理法に関する研究」を行い、高い評価を得る結果を出すことができました。

この成果を踏まえて、先生は次に『食育』によって、子どもたちがストレスに強い身体を作っていけないかと考えています。

ストレスだけでなく、糖尿病に代表される生活習慣病などはまさに食生活の改善による予防が望まれるものです。また薬に頼らない治療は遺伝子レベルにまで良い影響を与えるのではと考えられます。

私たちに普段からできる糖尿病予防の食生活のポイントは、「まずエネルギー(カロリー)に気をつけて、次に糖質・タンパク質・脂質をバランスよく摂ること。それからビタミンやミネラルです。最近はカテキンやイソフラボンなどのサプリメント類が過剰に宣伝されていますが、順番が逆です。現代人の食生活に一番必要なのは、魚や野菜・果物などをきちんとバランス良く適量を食べることです」と、先生は薬で押さえつけるだけでは本当の健康は得られないことを教えてくれました。

「もっともそんなに簡単に病気が予防できたり、治癒できるなら医者は失業しますが((笑)」

先生の研究からは糖尿病や慢性腎不全患者が活用できる機能性食品(流動食)も開発され製品化しています。

 

栄養学こそ最先端として

武田先生が研究と共に力を注いでいるのが人材育成です。

「臨床の現場で医師と共に働ける管理栄養士とともに栄養学のリーダーとなる教育者・研究者を育てなければ意味がありません」と、先生は研究室や教室だけでなく臨床の場にも学生を連れ出します。先生のように医師でありながら栄養学を研究する医学部の学生はそう多くないからです。

「もっと多くの人に知ってもらい、また国にもその重要性をわかってもらえるように、医療の場で貢献できる栄養学の道を開くことが、私の使命だと考えています」

研究室には海外からの留学生もたくさんいます。

医学のめざましい進歩の中で、どのように素晴らしい薬が登場しても、人間が人間である限り、栄養学は最も大切な基礎研究から人間を健康に幸せにする本来の最先端研究と言えるのかもしれません。

 

武田 英二氏のプロフィール
  • 1948 年生まれ
  • 1974 年 3月 徳島大学医学部医学科卒業
  • 1981 年 2月 医学博士( 徳島大学)
  • 1974 年 5月 徳島大学医学部附属病院医員( 小児科)
  • 1975 年 6月 高松市民病院医師( 小児科)
  • 1978 年 9月 米国インディアナ大学医学部研究員(実験腫瘍学)
  • 1981 年 5月 徳島大学医学部助手( 小児科)
  • 1986 年 6月 同医学部附属病院講師( 小児科)
  • 1989 年 4月 同医学部講師( 小児科)
  • 1992 年 2月 同教授(病態栄養学)
  • 1999 年10月 同栄養学科長(2001年10 月まで)
  • 2003 年10月 同大学病院食と健康増進センター長
  • 21世紀COEプログラム「ストレス制御をめざす栄養科学」拠点リーダー

  • 2004 年 4月 同大学院 教授(臨床栄養学分野)
  • 2009 年 4月 同医学部栄養学科長

 

[取材] 143号(平成23年4月号より)