最先端研究探訪 (とくtalk128号 平成19年7月号より)

2008年7月16日

大学院ヘルスバイオサイエンス研究部 生体栄養学分野
二川 健 にかわ たけし

 

徳大の実験室、宇宙に飛ぶ

 

二川健氏

巨大な宇宙ステーション完成へ

宇宙ステーション・・・20世紀にはSF小説や映画の世界であり、夢のような話であったものが、21世紀の初頭、はやくも私たちの頭上で建設されています。世界各国の協力によって建設中のこの国際宇宙ステーション(ISS)は、完成するとサッカー場ほどの巨大なものだそうです。

宇宙ステーション全体の完成は2010年の予定です。計画はスペースシャトル・コロンビア号の事故により遅れましたが、今年3月、ヨーロッパ各国の実験資材(器具)の搬入を皮切りに、日本でも今後、3回に分けて資材の搬入を開始(日本の実験棟の名称は『きぼう』)。現在それらのセッティングが進んでおり、来年8月から日本の実験がスタートする。

二川先生の実験資材は2009年4月に打ち上げ予定です。取材の時点では、「きぼう」日本実験棟打上げ2便目のスペースシャトルに星出彰彦宇宙飛行士の搭乗が決定しています。

 

実験開始へカウントダウン

宇宙ステーションでは、宇宙空間という特殊な環境を利用して、各国の科学者や研究施設、大学などが、植物、放射線、細胞・微生物という3つのジャンルで計9つの実験を行います。

そのひとつに二川先生の実験があります。テーマは『筋蛋白質のユビキチンリガーゼCblを介した筋萎縮の新規メカニズム』。共同研究者は平坂勝也先生(徳島大学)、武田伸一先生(国立精神・神経センター)、石堂一巳先生(徳島文理大学)です。

無重力状態では人の筋肉は意識的に運動しないと萎縮していきます。水中などでも同じようなことが起こります。この筋肉の萎縮のメカニズムを探り、これを防ぐ食物や薬を開発しようというのが研究のねらいです。

二川先生が直接宇宙に行くわけではありませんので、実験がうまく行われるように今年末から約1年かけて、つくばの宇宙航空研究開発機構JAXA(ジャクサ)やヒューストンのジョンソン・スペースセンターにおいて実験の細かなシミュレーションが何度も行われます。


左 種子島宇宙センターにて、右 ケネディ宇宙センターにて撮影

 

宇宙での成果を地上で実用化

長期間宇宙に滞在した宇宙飛行士は筋肉が萎縮して、地上に帰還した直後は自力で立てないほどだそうです。筋肉は薬などでは容易に増やせず、回復にはリハビリしかないと言われています。このことは将来(それは遠い未来の話ではありません)、一般人が宇宙旅行をする上での大きな課題となります。

二川先生らは、1998年に打ち上げられたスペースシャトルによる実験で、無重力により萎縮したネズミの骨格筋では特殊な蛋白質分解経路(ユビキチン-プロテアソーム経路)が活性化することを発見しました。

無重力状態での宇宙飛行士の体内では、ユビキチンリガーゼCbl(タンパク質を分解する酵素の一種)の増加が地上より早く、その分筋肉の萎縮も早く進むことがわかっていますが、その詳細な分子メカニズムを解明するには更なる宇宙実験が必要です。

この酵素とユビキチン化蛋白質の増加を止める食べ物や薬の開発は、実は宇宙においてだけでなく、例えば運動が困難な寝たきりの病人などにも応用され、リハビリなどに大いに役立つと期待されています。

二川先生はすでに、筋蛋白質のユビキチン化をブロックする特殊なアミノ酸配列を有するペプチドを発見。2つの特許を申請中ですが、今後の宇宙実験を経て、これらの研究成果の実用化に向けて、ただいま奮闘中です。


 

[取材] 128号(平成19年7月号より)