最先端研究探訪 (とくtalk131号 平成20年4月号より)

2008年7月16日

大学院ソシオテクノサイエンス研究部 先進物資材料部門
大野 泰夫 おおの やすお

 

電波で電気を送る!!
窒化ガリウム半導体の可能性探る

 

電気製品に欠かせない半導体

いわゆる団塊の世代と呼ばれる方なら、真空管に取って代わって登場したトランジスタをよくご存じでしょう。電気製品を飛躍的に小型化し、省電力・長寿命化したこの半導体の登場からわずか半世紀の間に、ICやLSIといった集積回路も登場し、半導体を取り巻く電気製品、特に電子機器分野においては画期的な進歩を見せています。

この半導体の材料として現在一番多く使用されているのがシリコン(ケイ素)です。非常に安定した構造を持っており、安価に製造できることや、パソコン・携帯電話などの情報機器や太陽電池、CCDカメラ等、応用範囲の広いすぐれた素材です。しかしシリコンには欠点、というかできないことがあります。例えば「光る」ことです。

ガリウムの窒化物である「窒化ガリウム(ちっかガリウム、GaN)」が現れてダイオードが実現し、赤、緑、青の3原色を半導体だけで作ることができるようになりました。

 

次世代の半導体材料として

さて前文が長くなりましたが、今回紹介します大野先生は、この「窒化ガリウム」の研究分野の第一人者として、その可能性をさらに大きく未来に拓こうとしています。

窒化ガリウムは青色発光ダイオード以外でも他の半導体と比べると、「高電圧で使用できる」「電子の速度が大きい」「高温での動作が可能」などの点が優れており、エネルギー効率が求められるパワーエレクトロニクスの分野や通信分野で期待されています。また化学的な性質も安定しており、塩酸や硝酸などの強い酸にも溶けません。ヒ素などの有害物質も使用されておらず、環境に優しい半導体としても注目されています。

窒化ガリウム半導体はサファイアの基板の上に窒化ガリウムの層(膜)を付けたもので、現状では非常に高価で、名刺ほどの大きさでも数十万円します。ただ製品にするときは、米粒より小さくカットしますので、単価は下がりますが。
「研究予算の半分以上が材料費に飛んでしまいます」
と大野先生。貴重な材料を大切に使いながらの研究が続けられています

 

手探りで始めた研究

先生の研究はNEC(日本電気(株))時代に始まります。最初はガリウムヒ素の発光ダイオード、続いてシリコンのLSIの研究などをしていましたが、1993年頃、上司から、当時アメリカではやり始めていた窒化ガリウムによる高周波トランジスタの研究を持ちかけられました。
「当時、日本ではまだ未知の研究で、既成の装置を流用した手探りの研究でした」
しかしその試作品は良い結果を出し、特に高周波や高電圧特性では既存の半導体より多くの優れた特性を引き出すことができたのです。コスト面さえ解決できたら、すぐにでも他の半導体にとって代わるだろうと考えた先生は、
「新しい材料は新しいアプリケーションといっしょに開発しなければ」
と考え、サファイア基板の上に集積回路技術を用い、情報通信技術の向上を目指す研究に取り組みます。この研究は「窒化ガリウムを用いたミリ波通信ICチップの研究開発」というテーマで、総務省の「戦略的情報通信研究開発推進制度」に採択されました。

例えばますます利用者が増え、また多機能化する携帯電話ですが、そうなると電波の帯域や製造コストの問題が生じてくることが予想されます。これらを解決する鍵を窒化ガリウム半導体は握っているのです。まず高い周波数を使うことで広い電波帯域が利用できること、そしてサファイア基板を利用して基板上にアンテナなどといっしょにトランジスタを作る(送受信機を一体化して製造できる)ことでコストが下げられます。

すでに携帯電話の基地局の高効率パワーアンプとしても実用化され、シリコン半導体では困難な用途の開発がすすめられています。また、ハイブリッドカーやモーター駆動用の高効率パワートランジスタとしても開発が進められ、地球温暖化問題への貢献が大きく期待される半導体材料です。


研究室の様子1

 

ユビキタス電源の実現めざして

このようにパワーエレクトロニクス分野や通信・情報機器の分野でシリコンなどよりも高い性能で将来性が見込まれる窒化ガリウム半導体ですが、大野先生は新たな分野として、窒化ガリウム半導体の持つ高い周波数(マイクロ波)の特質を利用した「電波で電気を送信する」という研究に取り組んでいます。

実は電波で電気を送るというのは、例えば接触せずに近づけるだけで情報を読み取るICカードなどですでに応用されていますが、これはごくごく弱い電気です。先生の研究が目指すものは、電源コードがなくても電気製品に電波によって電力を供給できるという「ユビキタス(それが何であるかを意識しなくても、いつでも・どこでも・だれでもが恩恵を受けることができる環境や技術のこと)電源」あるいは「ワイヤレス電源」です。

道路から電波で走る自動車に電力を供給したり、宇宙空間に大きなパネルを浮かべて太陽光を受け、そこで発電された電力を地球に送信しようと試みる、まるでSF映画のような「宇宙太陽光発電」プロジェクトも発案されており、こうした宇宙規模の計画にも先生の研究が採用されることになるでしょう。

もちろんこの研究にはまだまだ超えなければならない課題はたくさんありますが、近い将来、家電製品から電気コードが消える日が来るかもしれません。携帯電話やノートパソコン・電気自動車などの充電がワイヤレスになるかもしれないのです。


研究室の様子2

 

オフタイムを楽しむ

ところで大野先生の趣味のひとつがヨットです。近くにヨットハーバー(県庁前のケンチョピア)があることが徳大を選んだきっかけだったそうです。徳島ヨットクラブに所属し、たまにですが徳島の海のクルージングを楽しんでいます。

そして徳大に来てもう一つ趣味が出来ました。開放実践センターの「ホノルルマラソン講座」に参加したことです。週に二日、仕事を終えてから約10キロを走ります。最初は1キロ走るのも大変だったそうですが、この3月の東京荒川市民マラソンで初完走を果たしました。


左:クルージングの様子 右:マラソンの様子

[取材] 131号(平成20年4月号より)