最先端研究探訪 (とくtalk124号 平成18年7月号より)

2008年7月16日

大学院ヘルスバイオサイエンス研究部 口腔分子病態学分野
林 良夫 はやし よしお

 

未知の病気への挑戦!
難病・シェーグレン症候群に取り組んで

 

シェーグレン症候群とは

「シェーグレン症候群」、一般的には聞き慣れない病名ですが、1933年、スウェーデンの眼科医ヘンリック・シェーグレンが、涙が出にくいために眼の表面に傷が付く乾燥性角結膜炎に関する論文を発表したために、この病名が付けられました。数多くある自己免疫疾患の一種で広い意味でリウマチ性疾患に含まれています。

たちまち生命の危険に直結する病気ではありませんが、初期の症状では涙が出にくい(ドライアイ)、唾液が出にくい(ドライマウス)、汗が出にくいといった乾燥症状のほかに、疲れ易く気分が憂うつになったり、関節が痛くなって熱が出たりします。さらに重症になると関節リウマチや間質性肺炎など、全身にさまざまな症状を起こします。

病気特有の病状がはっきりとしていないのがやっかいで、まだその原因がほとんど解明されていない病気です。例えばドライアイやドライマウスだからといってシェーグレン症候群というわけではなく、そうした症状が出る病気の一部がシェーグレン症候群なのです。つまり症状がいろいろな病気と似かよっていながら多岐にわたっているために、患者さんは症状に応じていろんな科を受診し、診察してもシェーグレン症候群と特定されるのが難しいのです。そして国内で推定50万人といわれる患者の95%以上は女性だそうで、林先生のグループではこの病気が女性に極端に多い真の理由についても解明をすすめています。
「最終目標はもちろん患者さんへの効果的な治療です。研究は広範囲にわたりますから、内科や眼科・耳鼻科・皮膚科・整形外科などとの協力体制も大切でしょうね」と、林先生。

挑戦の姿勢いつまでも

20年以上もこの病気の解明に取り組んでこられた林先生は、1997年にはモデルマウスによる実験の結果、細胞膜を構成する「アルファ・フォドリン」と呼ばれるタンパク質に異常があることを発見。ヒトとも共通する原因であることを「サイエンス」誌上に発表するや多くの新聞や研究誌に取り上げられました。しかし、それ以前に、ヒトと同じような症状をもつ実験用のモデルマウスを樹立するだけでも10年を費やしたという地道で息の長い研究です。

その後の研究により、アルファ・フォドリンの異常は、女性ホルモン(エストロゲン)の欠乏とも関連し、他のさまざまなリウマチ性疾患の原因となっていることが判ってきました。それでもまだまだ大半は未知の世界なのです。

「いつも挑戦し続ける姿勢を持っていなければなりません。生命科学、とくに難病研究は核心に近づけば近づくほど難しくなります。何かが判れば新しい未知の課題がさらに倍増するからです。」

2003年には「日本リウマチ財団」が毎年、リウマチ研究の発見や進歩に大きく寄与する国内の研究者に贈る「ノバルティス・リウマチ医学賞」を受賞。中四国では初めての受賞となりました。

シェーグレン症候群を含めた自己免疫疾患を治療するための治療法の発見は、今後の医学にとって重大な研究課題です。

林先生の研究グループでは、すでに発表したアルファ・フォドリンがカスパーゼ(タンパク質分解酵素)の基質タンパクであることから、その病気固有の膜タンパクの破綻が自己抗原(病気の標的となる物質)の成立に深く関与している可能性が高いとし、シェーグレン症候群の発症に密接に関連する膜タンパク破綻の成立機序の解明によって自己抗原制御システムを先端医療技術として創出し、さらにその他の自己免疫疾患も視野に入れて広範な研究を進めています。これにより難病の特異的な診断・治療法の臨床応用の実現が期待されています。


上写真は林氏と研究スタッフ、下写真は研究室の様子

 

[取材] 124号(平成18年7月号より)