最先端研究探訪 (とくtalk121号 平成17年10月号より)

2008年7月16日

工学部化学応用工学科
佐藤 恒之 さとう つねゆき

 

ポリマーの可能性に
生涯をかけて・・・

 

ポリマーは身近な存在

「ポリマー」という言葉は実に多くの私たちの身の回りにある製品(化合物)のことをさします。大雑把に言えば、熱や薬剤等を使って変形させ、凝固させたもの全て・・・、例えば良く知られているものではプラスチックやビニール・ナイロン・塗装してから固まるペンキ・接着剤・ガラスなどはほとんどがポリマーを合成して作られた製品なのです。紙などの天然素材で作られたものも、その原料はセルロースという自然が合成したポリマーの一種です。

ポリマーに対してその合成に使われる前の素材の状態を「モノマー」と言います。単量体とか低分子化合物とも言われ、たいていは液体か粉末状をしています。正確に言えば、モノマーは単体(1つ)のことで、2つになると「ダイマー」、3つで「トリマー」で、ポリマーは多数が結合した状態を言います。

電車の車両(モノマー)と車両がつながった「列車」(ポリマー)の関係だと思ってください。そして車両をつなぐことを「重合」と言います。その中で最もよく用いられているのが、「ラジカル重合」です。

「私が大学へ入った昭和30年代前半はナイロンやビニール、プラスチックなどが登場してきて、高分子化学が新しい時代を開こうとしていた時でした。おのずと化学の世界をめざすならポリマーということになりました」と語る佐藤先生は、ポリマー合成(ラジカル重合)の研究に長年取り組んできました。そして多くの新規構造ポリマーの合成に成功、企業の製品開発にも貢献してきました。

 

新しいポリマーの開発

そんな先生が現在研究しているのが下図のような「高分岐ポリマー」です。

モノマーがポリマー合成されるとき、通常は数珠のように線状につながっていきます。ビニールやナイロンが柔らかく、引っ張れば伸びたりするのもこのためです。

これに対して「高分岐ポリマー」と呼ばれる3次元ポリマーは、モノマーが立体的・樹木状につながっており、形が球状で多数の末端基を持ち、分子内に空隙(すきま)があります。また溶解性が高く、分子間の相互作用が小さいために、たくさん溶かしてもサラサラしていて、粘り気がないという特性があります。

佐藤先生は、生成されるポリマー粒子の径が5nm~20nmというナノ粒子で、分子量が非常に高い(数十万から数百万)にもかかわらず、高分岐ポリマーの特徴である溶液粘度の極めて低い、分子内の空隙もある「可溶性樹木状高分岐ポリマー」の合成に成功、特許を出願しました。

佐藤先生のこの可溶性樹木状高分岐ポリマーの合成法は「開始剤組み込み重合」と名付けられ、ラジカル重合(最も汎用性の高い高分子合成法の一つ)が可能な全てのモノマーで応用でき、多種多様な高分岐ポリマーの合成ができるようになりました。

例えば、溶液粘度が低く、分子内の空隙に低分子化合物(染料の分子など)を包み込んだりできるため塗料やインクジェットプリンタのインクに応用するなど、多種多様な商品開発が可能になりました。

 

ポリマーの可能性は未知数

今年に入って、新しい発見がありました。

ポリマーを(ある溶剤で)溶かし、ガラスの上にのばして溶剤を気化させると、そこに薄い膜が残るのですが、この膜に顕微鏡でのぞかないとわからないような小さな無数の丸い穴(直径約1ミクロン)ができるのです。それは何かの規則や法則があるかのような現象です。溶剤によって穴のでき方や大きさは違いますが、規則正しく穴が並んだ様子は、ポリマーの新たな性質の発見でしょうか?

良く似た現象は既にあったそうですが、それは湿度の高い状態でポリマー溶液中に水滴を作らせ、水分を取り除いたときに、空隙としてできるものでした。しかし今回の発見は今までのものとは明らかに違っているそうです。

この新しく発見された性質が、いったいどのような製品のどのような開発に役立つのかは、取材させていただいた時点ではまだわかっていません。

しかし研究し尽くされた、開発し尽くされた感のあるポリマーにも、まだまだ多くの可能性、未知の発見があるようです。
「大学でいると学生からエネルギーをもらえます。何か新しいことへの発想は若い人。発見は経験者の目。若い人と研究できるのは素晴らしい、ありがたいですね」佐藤先生はあと数カ月で定年となります。しかし、
「高分岐ポリマーはまだまだ未開発です。熱い思いでこの研究を続けていきます」
と、その情熱は若い人にも負けていません。

本年5月には、先生の高分子科学や高分子学会への貢献に対して、「高分子科学功績賞」が贈られました。

 

佐藤恒之氏
  • 経歴
  • 1963年3月徳島大学工学部応用化学科卒業
  • 65年3月大阪市立大学大学院工学研究科修士課程修了
  • 67年4月大阪市立大学助手
  • 70年9月工学博士(大阪市立大学)
  • 76年10~77年9月ドイツ・マインツ大学フンボルト奨学生
  • 85年5月徳島大学工学部助教授
  • 88年4月徳島大学工学部教授
  • 97年4~99年3月徳島大学地域共同研究センター長

 

[取材] 121号(平成17年10月号より)