最先端研究探訪 (とくtalk137号 平成21年10月号より)

2010年1月8日

大学院ソシオ・アーツ・アンド・サイエンス研究部 環境共生科学分野
佐藤 征弥 さとう まさや

 

植物にDNAからアプローチ
農業と巨樹の研究に貢献

 

イチゴの病気診断に大きな貢献

徳大における佐藤先生の研究テーマは、
1.DNA(遺伝子)分析によるイチゴの重要病害診断法の開発
2.DNA分析によるイチョウの伝来・伝播ルートの解明および巨樹の歴史
3.植物プランクトンの重金属メカニズムの解明

などでいずれも最先端の研究ですが、今回は「1」と「2」について紹介します。

イチゴは本県の農産物の中でも主要産物のひとつですが、栽培はデリケートで病害にもおかされやすいものです。イチゴの病気は様々な病原菌やウィルスによって引き起こされますが、そのうち炭疽病、萎黄病、疫病の3つは被害が大きく、かつ初期症状が似ているのでやっかいな病気です。そしてこれら3つの病気は、それぞれ対処方法が違うので、病気をより早く特定することが被害を軽減するために重要となります。

従来の検査方法は、病気のイチゴの苗から病原菌を分離して培養しています。これらを見分けるためには専門知識が必要で、時間も数日から2週間程度かかります。また検査対象は苗だけです。

佐藤先生は大学院時代から植物のDNA解析に取り組んできた実績から、イチゴの病気を判別するために病原菌のDNAを解析する方法の開発を試みました。そして特別な専門知識を必要とせず、これら3つの病気(病原菌としては5種類)を一度に、しかもたった一日で診断できるようにしました。この方法は土壌中の病原菌の検出も可能で、病気の予防への応用も期待されます。

昨年には特許を取得し、本年6月には日経産業新聞にも取り上げられました。現在、ベンチャー企業と協力して実用化を目指しています。

 

イチョウの歴史を探る

イチョウはとても身近な樹です。実は食用となり、葉には防虫効果もあり、本の栞などにも使えます。生命力・繁殖力が強く、巨木となると、乳根という枝が垂れ下がり、地上に届くと別の木が生えているようにも見え、数が多くなるとまるで小さな林のようになります。寺社では神木となり、街路樹としても最も多く植樹されています。

古代、イチョウが広く世界中に分布していたことは化石などによって確認されていますが、ヨーロッパや日本では一度絶滅しており、中国の一部にのみ生き残りました。文献によると、歴史上初めてイチョウに関する記述が登場するのは11世紀の中国で、日本の文献に登場するのはそれから3世紀以上後となりますが、いつどのような経緯で伝来して、どのように広がって行ったのか、その詳細は明らかではありません。

イチョウは、野生で育つことがほとんどなく、人が管理しないと生き残らない樹です。ですからイチョウが日本に伝来して広がっていった歴史は人の交流の歴史でもあります。佐藤先生は、イチョウの辿った道を探るため、歴史的文献の調査とともにDNA分析からもアプローチしています。

 

イチョウを求めて世界へ

楠や杉などと並ぶ巨樹としてのイチョウ。佐藤先生は古いイチョウのDNAを調べるために幹周りが6メートル以上の巨樹イチョウを調査しています。日本にはこのサイズのイチョウが450本あり、すでに300本以上の調査を終えています。イチョウのDNA分析は葉を採取し、葉の細胞に含まれるDNAの塩基配列を比較します。これまでに日本のイチョウは突然変異のパターンから23タイプに分類されています。その分布は東日本に多いもの、九州に多いもの、中国・四国地方に多いもの、全国の港に近い所に点在するものなど様々で、イチョウの伝来とその後の伝播は実に多様であることが分かってきました。

日本だけでなく、中国や朝鮮などにも出かけてイチョウの巨樹のDNAを採取し比較しています。さらにもっと広い範囲での調査も進めています。イチョウのルーツを探る研究はまだまだ奥の深いものになりそうです。
「調査に行っても、神木だからと触ることも許されないことや、逆に神木にまつわる祭事に参加させてもらい、地元の人との交流ができることもあります。神木のイチョウのDNAが同じと言うことが縁となって、韓国との交流が始まった町もありました」

先生とイチョウの出合いは、2002年、筑波大学でイチョウの研究をしていた堀輝三(ほり てるみつ)教授を手伝ったことでした。堀先生が全国の巨樹イチョウを網羅し紹介した著書には、23世紀までそれらの樹の情報をメモできるスペースが設けられていて、巨樹イチョウをずっと大切にしてほしいというメッセージが込められています。
「巨樹の歴史について系統立てて研究することは、単にルーツを探るだけでなく、貴重な文化の継承であり、新しい発見が未来への財産となることを願っています。これからもイチョウのルーツを追求し続けます」
と、佐藤先生のイチョウの研究は、最先端でもあり何百年という歴史との対話でもあります。

 

佐藤 征弥氏のプロフィール

  • 1985年 東北大学理学部生物学科卒業
  • 1987年 同大学同学科博士前期課程修了
  • 1990年 後期課程修了 理学博士
  • 1990年 筑波大学第2事務区文部技官
  • 1992年 科学技術特別研究員として農水省生物資源研究所に勤務
  • 1995年 COE非常勤研究員として農水省生物資源研究所に勤務
  • 1995年 徳島大学総合科学部講師
  • 2000年 同助教授
  • 2007年 同准教授

[取材] 137号(平成21年10月号より)