最先端研究探訪 (とくtalk139号 平成22年4月号より)

2010年10月22日

大学院ヘルスバイオサイエンス研究部(歯学系) 口腔組織学分野
羽地 達次 はねじ たつじ

 

骨の形成に関わる研究の最先端

 

骨はどのようにして作られるのか?

私たちの身体は60兆ほどの細胞で出来ており、その細胞は刻々と生産され、また破壊されています。いわゆる新陳代謝しているわけです。それらの細胞の生産や破壊、さらに活動を支えているのが多くのタンパク質です。そしてタンパク質の働きには、酵素と呼ばれる物質が関与しています。 このように私たちの身体はおびただしい数の物質により、無限に近い組合せと奇跡的な超精密機械のような仕組みで、その生命が維持されています。この絶妙なバランスが崩れると、私たちの身体は病気などの異変を起こします。 羽地先生が取り組んでいる骨を作る仕組みに関する研究もその細胞活動の一部です。ご存じのように骨は身体を支えているだけでなく、骨髄において血球やリンパ球を生産する大事な部分です。ではその骨はどのようにして作られるのでしょうか?

骨は、骨を作る『骨芽細胞』と骨を破壊する『破骨細胞』の働きによって、約2年間の周期で新しくなっているそうです。骨芽細胞と破骨細胞を作るのにも『タンパク質リン酸化酵素とタンパク質脱リン酸化酵素』という、タンパク質にリン酸を添加したり、添加されているリン酸を除去したりする酵素が関係しています。リン酸化とは、タンパク質や有機化合物にリン酸基を付加させる化学反応で、私たちの身体の中で大きな役割を担っています。タンパク質をリン酸化する、あるいは脱リン酸化(酸化を妨害)することが、骨の生産や破壊にも関与しているのです。この仕組みの解明が今回紹介する最先端、羽地先生たち研究グループの成果です。

 

数々の経験が実を結ぶ

学生時代(九州歯科大)、生化学の研究室に入り浸り、分子生物学を学んだ先生は、大阪大学の微生物病研究所で5年間、精子形成の研究に取り組んでいました。その後、アメリカ、マサチューセッツ州にあるウースター実験生物学研究所(Worcester Foundation for Experimental Biology )に7カ月在籍した後、本格的に精子形成の研究をするために、ニューヨーク市ロックフェラー大学にある人口問題研究所(The PopulationCouncil)で5年間研究してきました。その間、ウッズホール海洋生物学研究所(Marine Biological Laboratory、下村博士がノーベル賞をもらったことで話題になった研究所)に特別研究員として5年間にわたり、夏の2カ月半を過ごしました。

その後、ふとしたことで知り合いになった千葉大学の教授に誘われて千葉大学に4年間、出身校の九州歯科大学に戻って6年間研究を続けました。日本に帰ってからも、ウッズホール海洋生物学研究所に2年間、ノースカロライナ大学チャペルヒル校(University of North Carolinaat Chapel Hill )に、(一定期間だけ研究や講義をする他大学からの)客員教授として2年間、夏の2カ月をアメリカで研究してきました。この海外での研究生活の経験は、先生にとって大きな財産となりました。

1999年に羽地先生は徳大歯学部へ。徳大で骨の研究を始めたとき、精子の研究で取り組んでいたリン酸化の研究を生かして、骨芽細胞と破骨細胞を作るのに、『タンパク質リン酸化と脱リン酸化』がどのように関わりあいを持っているかという問題に興味を持ち研究を始めました。

骨の形成に重要な役割を果たしている『タンパク質リン酸化酵素と脱リン酸化酵素』が、細胞のどこにあって、どのような働きをしているのかは、すでに研究が進んでいて、先生の研究グループは、骨の形成に関する『タンパク質リン酸化酵素と脱リン酸化酵素』を発見しました。骨の破壊に関する『タンパク質リン酸化酵素と脱リン酸化酵素』に関してはよくわかっていないので、現在この方面に関しても研究を進めています。  骨の形成と破壊に関する『タンパク質リン酸化酵素と脱リン酸化酵素』の働きやその活動の過程が解明されたことにより、今後の骨に関する疾患の治療は大きく進歩することでしょう。

 

先生からのメッセージ

先生自身、外国の研究所の構内でなにげに知り合った老人がノーベル賞をもらった人だったり、大学院時代に知り合った先生が研究室に誘ってくれたりと、人間関係の大切さを経験されてきました。
「人生長くて80数年、できればその中で2年ぐらいは海外の研究室で思い切り研究を経験してください。また研究会やワークショップなどには積極的に参加して色々な先生と議論すること。そして何よりも友達をいっぱい作って、先生や先輩・後輩など、人間関係を大切にして下さい。きっと人生のいろんなところで役に立ちます」と、先生から皆さんへのメッセージです。

 

羽地 達次のプロフィール

  • 1971年3月 兵庫県立尼崎高等学校卒業
  • 1977年3月 九州歯科大学卒業
  • 1981年3月 大阪大学大学院医学研究科修了(微生物病研究所・細菌ウイルス学部門)
    この間、ロックフェラー大学、コロンビア大学等を経る
  • 1989年3月 千葉大学助手、医学部・解剖学第二講座に就職
  • 1993年8月 九州歯科大学助教授、歯学部・口腔解剖学第一講座
  • 1999年7月 徳島大学教授、歯学部・口腔解剖学第二講座
  • 2004年4月 徳島大学大学院教授、ヘルスバイオサイエンス研究部・口腔組織学分野

 

[取材] 139号(平成22年4月号より)