APシンポジウム(アクティブ・ラーニング)

1. 概要

本シンポジウムは、初年次教育プログラム「SIH道場」で導入されたアクティブ・ラーニングの取り組みを、学士課程全般に浸透させていくことを目指して実施された。徳島大学総合教育センター教育改革推進部門の新原将義が趣旨説明及び司会を務め、徳島大学総合科学部土屋敦氏、徳島大学医学部三笠洋明氏、徳島大学教養教育院渡部稔氏の3名による話題提供の後、広島大学大学院古澤修一氏による指定討論を行い、会場を交えたディスカッションを実施した。

以下ではまず、プログラムの主旨と各提題者による提題の内容を記すことでプログラムの詳細を示し、その後、実際に行われたシンポジウムの様子を報告する。

2. プログラムの詳細

2.1 本シンポジウムの主旨

アクティブ・ラーニングは、大学における伝統的な教授方法であった、一方向的な講義による知識伝達に代わる教授方法として注目を集めている。徳島大学は、文部科学省が推進する「大学教育再生加速プログラム(AP)」のうち、テーマI「アクティブ・ラーニング」の取り組みに選定され、「学生と教員が共に成長する「SIH道場―アクティブ・ラーニング入門―」」を軸に、アクティブ・ラーニングの手法を用いた教育の推進を行っている。本学のAPの取り組みは、「鉄は熱いうちに打て」(SIH:Strike while the Iron is Hot)の精神に則り、反転授業、グループワーク、学修ポートフォリオ、専門領域早期体験等によるリフレクションを基盤としたアクティブ・ラーニングの体験を通して、学生と教員が共に学び合い成長する教育プログラムである「SIH道場-アクティブ・ラーニング入門-」を、初年次に導入するとともに、学年進行に伴い、アクティブ・ラーニングの実質化を学士課程全般に浸透させていくというものである。本シンポジウムは、APの取り組みの一環として、平成27年度より初年次教育プログラムとして導入された「SIH道場」でのアクティブ・ラーニングの実践を専門教育にも波及・浸透させることを目的としている。

徳島大学では、アクティブ・ラーニングを「教員による一方向的な知識伝達とは異なり、課題演習、質疑応答、振り返り、グループワーク、ディスカッション、プレゼンテーション等を取り入れることにより、学生自らが考え抜くことを教員が促し、学生の能動的な学習を促進させる双方向の教授・学修のこと」と定義している。またこの定義に合致する授業の実施率を測定し、向上させることを目指しており、一定の成果を上げている。

しかしこうした取り組みの成果を正当に評価するためには、「定義を満たす授業がどれだけ増えたか」という俯瞰的な視点だけではなく、「その定義を参照物とし、自らの授業実践の改善に取り組むことによって、授業がどのように『良く』なったのか」という、当事者的な視点からの検討が不可欠である。こうした視点からの報告は、単なる個人的な工夫や主観の反映ではない。こうした報告を検討することは、社会的な価値観の変化や大学の組織的な取り組みに影響を受けながら、教員個々人が自らの実践をより良いものにしていくという、社会的相互行為としての教育実践について検討するための端緒となることが期待できる。

本企画では、徳島大学に所属する3名の教員の提題内容について報告を頂く。この3つの実践を、単なる個人的な努力の結果ではなく、また組織的な取り組みの押し付けでもなく、教育業界、大学、そして教育者という3者の社会的協働実践として読み解くことが、本企画の目的である。

2.2 学生の思考をくすぐる授業を準備するための舞台裏

――「生命倫理と現代社会」でのグループ・ディスカッションの活用を例に――

(徳島大学総合科学部 土屋 敦)

本報告では、私が教養教育科目「生命倫理と現代社会I・II」で活用しているスモール・グループ・ディスカッション(以下、SGD)の取り入れ方の工夫の舞台裏での試行錯誤過程を紹介したい。生命倫理をめぐる主題は、出生前診断の是非や小児の脳死臓器移植、終末期における看取りのあり方など、一見すると学生の日常からは遠く感じる主題ではあるが、実は多くの方が長いライフコースの中で1度や2度は経験する主題が含まれる。そして、どの主題についても「正解がない」ことが講義内容の醍醐味でもある。授業は、講義およびVTR鑑賞10回、その合間に6-8名のグループからなるSGD5回で構成されており、学生が与えられた主題について他学部や他学科の学生と議論をする機会を最大限有効活用するかたちで実施する工夫をしている。講義のコンセプトは「学生の思考をくすぐること」である。そのための講義構成の工夫を紹介したい。

2.3 統計学実習における学修者の視点に立った授業改善の試み

―アクティブ・ラーニングの基礎づくり―

(徳島大学医学部 三笠 洋明)

医学統計学実習の最終目標は、データに応じた適切な統計手法を選ぶことができ、解析し、結果を解釈し正しく記述できることですが、限られた時間内ではいくつかの統計手法を体験するだけで、目標の到達は容易ではない。そこで、統計解析の必要性を理解させ自立した学修者を育てるには教員が何をすべきかを明らかにしたいと考えている。

医学部保健学科2年生の統計学実習(受講者62名)を対象としている。実物の課題や、シミュレーションによる可視化などを用いている。毎回の実習の終わりに、「今回の実習で理解できたこと、理解できなかった事」、「実習の進め方で良かった点、改善が必要な点ならびに授業改善に関する提案」、「満足度」を調査している。また、学生の統計解析のレポートも学生の学修到達度を評価する重要な資料となる。満足度以外はテキストデータなので、質的研究の手法、ルーブリック評価を用い学修者が積極的に取り組むために教員は何をすべきか、また、学生がアクティブに学修するに必要な環境整備も含め、授業改善の戦略を探っている。

2.4 基礎生物学の授業におけるアクティブ・ラーニングの実践例

(徳島大学教養教育院 渡部 稔)

徳島大学医学部保健学科の1年生に対して、基礎基盤教育科目である「基礎生物学」の授業でアクティブ・ラーニングを実践した例について報告する。このクラスは50名程度の学生数で、約3分の2の学生が高校時に生物学を選択していない。そこで、高校の生物学の内容からはじめて、大学の専門課程への導入となるレベルの授業を心がけた。この授業は基本的には座学であるが、授業の約半分で授業内容に即した簡単な実験を教室で行った。例えばタンパク質の性質を講義した次の週では、ホタルの発光タンパク質を用いて学生に発光反応を確認してもらった。また有性生殖の授業では、実際にカエルの人工授精を行い、卵と精子の結合で新しい生命が生じることを体験した。最終授業の授業アンケートでは、実験をもっと増やしてほしいという声が最も多かった。一般の教室で行うことができる実験には限界があるが、講義と実験をバランスよく行うことで学生の意欲を引き出すことが可能だと思われる。

3. 指定討論

指定討論では、本シンポジウムの趣旨説明において、「アクティブ・ラーニングは形式ではなく、よい授業を行うための1つの方法としてアクティブ・ラーニングという方法がある」という説明があり、はじめに古澤氏よりこれは非常に良い説明であったという指摘がなされた。続いて、土屋氏の報告について、スモールグループ・ディスカッションに入る前の動機づけが有益であるとの指摘があり、難し課題に対して学生はどのような意見を出しているのか、また教員はどう対応しているのかについて議論したいとの質問があった。三笠氏の報告について、授業のはじめにルーブリックを示した上で授業を展開している点は、到達目標を示していることであり、重要であるとの指摘があった。毎授業におけるアンケートの実施、そのフィーババックについても大切であるであるということが示された。渡部氏のミニ実験を講義の中で実施していることについて、アメリカの大学の講義を受けているようで、素晴らしいと思うとの指摘があった。体験をして、その内容に関する理論を理解するということは大切であり、古澤氏も感化されたのことであった。

4. まとめ

ディスカッションではフロアから多くの質問が寄せられ、活発な議論が行われた。報告者の授業について具体的な方法を確認する質問から、このような授業を行うことになったきっかけ、学生から学ぶことなどについて意見交換が行われた。また、三笠氏の授業を受けた学生が参加しており、授業や先生に対する思いを語ってくれた。その学生によると「はじめは嫌な先生だと感じることがあったが、毎回アンケートを実施し、学生の意見を聞き入れつつ授業を展開し、質問にも丁寧に答えてくれることで、徐々に先生や授業に対して、前向きに取り組むようになり、今では一番好きであり、よく頑張った授業だと言える」という感想が述べられた。

近年はアクティブ・ラーニングの促進が強く叫ばれており、アクティブ・ラーニングの形式だけが議論されることがよくある。本当にアクティブ・ラーニングを意味ある形で普及していくためには、形式ではなく、学生と教員がお互いに理解し合えるような授業を展開することが重要である。「学生の学び」を最優先に考え、双方向で授業を展開するように努力した結果は、自ずとアクティブ・ラーニングと呼ばれる形式に当てはまっているのではないかと考える。