平成30年度徳島大学入学式式辞

平成30年度徳島大学入学式式辞

平成30年4月6日(金曜日)

会場 アスティとくしま

新入生の皆さん、また、ご家族の皆さま、ご入学おめでとうございます。徳島大学は皆さんを心から大歓迎いたします。徳島大学は、国立大学として1949年に設置され、2019年には、設立70周年を迎えます。このような長い歴史の中で、多くの優秀な人材を輩出してきました。皆さんもその一人になるでしょう。将来、皆さんに「世紀の大発見」をしていただき、本学の卒業生から多くのノーベル賞受賞者がでることを期待しています。そこで、その確率を上げるために、「大発見をする方法について」私の考えを述べ、祝辞にさせていただきます。

あらゆる新規なものは、多分その発見・発明の過程において、「偶然」があったのではないかと思っています。学問的な話としては、ニュートンの重力(リンゴ)やペニシリンの発見が有名ですが、多くの薬、コーラ飲料、電子レンジ、フッ素樹脂、ナイロン、導電性高分子、青色LED、人工甘味料サッカリン、セロハンテープ、絆創膏、フライングディスク、サンドイッチ、アイスキャンディー、スライム、X線、加硫ゴム、面ファスナー、ステンレススチール、藤色(合成染料)、瞬間接着剤、ペースメーカー、ポテトチップス、付箋紙、シャンパン、アイスクリーム・コーン、電流と磁気の関係、ダイナマイト、トランジスタなど、多くの重要な発見・発明が偶然に依存しています。

例えば、白川英樹博士は、導電性高分子の発見で、2000年にノーベル化学賞を受賞されました。その発見のきっかけは、研究室に来ていた留学生が、ポリアセチレンの重合実験をプロトコールに従って実験をしたのですが、記載されていた触媒の濃度をミリの文字に気づかず1000倍にしたという失敗をしたためでした(注1)。

また、島津製作所の田中耕一博士は、高分子質量分析法(MALDI法)の発見で2002年にノーベル化学賞を受賞されました。タンパク質を質量分析にかける場合、タンパク質を気化させ、かつイオン化させる必要がありますが、タンパク質は気化しにくい物質であるため、イオン化の際は高エネルギーが必要です。しかし、高エネルギーにするとタンパク質は分解してしまうため、高分子量のタンパク質をイオン化することは困難でした。ある日、実験資料に「間違えて」グリセロールとコバルトを混ぜてしまい、「どうせ捨てるのももったいない」と実験したところ、分析できたのでした(注2)。

最後に、徳島大学の私の研究グループの偶然の発見を少し紹介させていただきます。ヒトも受精卵から細胞分裂を繰り返し、ヒトの形になります。四肢もその過程で形成されますが、四肢を誘導する物質をニワトリ胚の実験から偶然発見しました。それは、線維芽細胞増殖因子10(FGF10)でしたが、このFGF10をニワトリ胚の四肢ができない体側に作用させると、過剰な肢が形成され、これを「蛇足」と名付けました。このFGF10遺伝子のノックアウトマウスを作製すると、四肢が形成されないマウスになりました。「蛇足」の話でした(注3)。

このように「偶然の現象」を捉えることにより、ノーベル賞に値するような大発見・発明が成し遂げられています。偶然を味方にする能力のことを、セレンディピティと呼んでいます。このセレンディピティを獲得することが、大発見をするためには必要です。その方法は、フランスの細菌学者ルイ・パスツールの言葉に言い尽くされています。彼は、「Chance favors the prepared mind.(英語訳) 」「偶然は準備された心を好む(著者訳)」と言っています。偶然を味方にするためには、極端な表現をすれば、問題や課題を常に考えていないといけないのです。それが準備です。課題や問題を明確にして考え続けていると、答えは偶然やってくるはずです。

 

    参考文献
  • (注1)白川英樹: 化学に魅せられて、 岩波新書(2001)
  • (注2)田中耕一: 生涯最高の失敗、 朝日選書(2003)
  • (注3)上野直人、野地澄晴: 新形づくりの分子メカニズム、羊土社(1999)

(この内容は入学式の式辞の一部です。)

最終更新日:2018年4月16日